通常、歳を取るほどミトコンドリアの活性は下がるのだが、高地にいる長野の人は、日常生活を送りながら、トレーニングをしているのと同じ環境にあるといえる。
一見、厳しいように思える長野の環境は、人体だけでなく、そこで育つ植物にも良い影響を及ぼすという。
「高山村や茅野市、佐久市など多くの市町村では、冬の冷え込みが厳しいだけでなく、一日単位で見ても、昼夜の温度差がかなりあります。これが、野菜などの植物を強くするんです。
過酷な環境で栽培された植物ほど、抗酸化作用や免疫力を高める栄養素・フィトケミカルをより多く含んでいます。代表的なものには、ポリフェノールやカロテンなど。つまり、厳しい環境で育った野菜のほうが栄養価が高いのです」
野菜を選ぶときには、長野など寒暖差の大きい地域で育ったものを選ぶとより良いということになる。
環境的な要因で白澤医師がとくに注目しているのが、意外なことに「海がない」という点だという。従来、研究者の間では、海に囲まれた地域こそが健康長寿であると考えられてきた。魚の消費量が多いからだ。魚には、血液サラサラ効果で心臓病などの予防に良いオメガ3脂肪酸(EPA、DHAなど)が豊富に含まれており、健康によいとされている。
「長野には海がなく、魚の消費量も低い。なのに、心臓病の死亡率が低いんです。長野によって、長寿に海は必要ないということが示されたとも言える。
ただし、オメガ3に効果がないということではありません。我々が長野の人の血液を調べたところ、血中のオメガ3濃度は高かった。これは、魚だけでなくエゴマ油(しそ油)などにもオメガ3は含まれているので、長野の人はそうした野菜から摂取していると考えられるのです。
もうひとつの推測は、海の汚染が深刻になっていて、海に囲まれた地域の人の寿命を縮めているということ。魚を食べる人間に、悪影響が及んでいる可能性もあります。長野は、魚を食べないからその影響が小さいのかもしれません。きちんと調査しなければわかりませんが、事実、海に面した富山県民の毛髪ミネラルを調べると、水銀レベルが高いのです」
なぜ沖縄は急落したか
昔は、海に囲まれて新鮮な魚をたくさん食べていた人が健康になれたが、環境が変動し、過去の常識が覆されてきている。