2013.05.13
# 本

『対中戦略 無益な戦争を回避するために』(近藤大介著)
~第2章「中国の野望」より一部抜粋~

 習近平総書記が、「中華民族の偉大なる復興」というセリフを語る時、そもそもそこにある"起点"は、1840年のアヘン戦争を指す。

 中国は古代から、伝統的に近隣諸国に対して「朝貢外交」を行ってきた。これは東アジア特有の主従関係のシステムである。

 近隣諸国は形式的に、中国を宗主国、そして中国の統治者を「皇帝」と崇め、恭順の意を示す。中国の皇帝は、近隣諸国の統治者を臣下とし、その国の「王」と認める。各国の王に義務づけられるのは、中国に向けて兵を挙げないこと、毎年正月に中国へ特使を送り、引き続き恭順の意を示すこと、王が代わる際には事前に承認を得ること、以上の3点である。

 これにより中国は、その国の内政には干渉せず、その国に経済援助を施し、その国から要請があれば援兵を出す。

 古代から連綿と続いてきたこの「東アジアの形」が崩れたのが、1840年のアヘン戦争だった。これに敗北した中国(清朝)は、歴史上初めての不平等条約を、英米と結ばされたからだ。この宗主国から被宗主国への転落から、習近平総書記の口癖である「屈辱の100年」が始まったのである。

 アヘン戦争で敗戦した清国は、1842年にイギリスと結んだ南京条約で、いったんは香港を割譲させられた。だがその後、1898年に再度、イギリスと香港領域拡大協約を結び直し、「99年間の租借」に変えることに成功したのだった。

 平均寿命が50歳にも満たなかった19世紀において、英国人にとってみれば、「割譲」も「99年間の租借」も、ほぼ同意であったろう。ところが「大陸的時間軸」で物事を計る中国人にとってみれば、雲泥の差なのである。実際、99年後の1997年7月1日に、中国は香港をしっかり取り返した。

 しかも返還をごねるイギリスに対して、最高実力者の鄧小平は、「返還後も50年間は『一国二制度』を貫く」として返還を実現させた。99年間待った末に、さらに50年間延長して「完全統一」を果たすというのだから、中国人の「大陸的時間軸」には恐れ入る。

 日本人が気をつけなければならないのは、この「大陸的時間軸」は未来ばかりでなく、過去にも適用されることだ。すなわち、中国がいまだに過去の歴史問題について日本を非難するのも、この「大陸的時間軸」に由来するのである。中国人にとって、先の日中戦争で日本から侵略を受けたのは、「たかだか70年ほど前の出来事」に過ぎないのである。

 私はかつて北京大学に留学した時、「日本から来ました」と担当教授に挨拶に行ったら、「それではアベさんの後輩ですね」と言われた。教授の言う「アベさん」とは、安倍晋三首相のことではなく、何と遣唐使の阿倍仲麻呂のことだった!

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