2013.06.12
# 雑誌

話題の本の著者に直撃!田中森一
獄中で論語を読み直して「恕」の精神で生きると決めた

フライデー プロフィール

 論語を読み直そうと思たのは、まさにこのとき。ワシのいた独房からは、大きな桜の木が見えた。窓から枝を見とると、ツボミが毎日少しずつ大きくなっていくのがわかる。あるとき雪を被ったツボミが、自分に語りかけてくるような気がした。「見てみい。俺かてこれだけ苦しいなかでがんばっとる。それは春に花を咲かすためや」と。

 そのとき、苦しい今こそがんばらんとアカン、と心から感じてね。強い信念を持った自分を取り戻すために、論語からもう一度始めようと思たんですよ。以来、関係する書籍を独房で読みあさり、薬の副作用と闘いながら、1年かけて大学ノートに自分なりの論語の解釈を書いていった。それを一冊にまとめたのが、この本なんです。

いつまでも闇の守護神ではアカン

去る4月14日には、都内で出版記念会を開催した

―本書では少年時代、検事時代、そして弁護士時代の様々なエピソードを論語の言葉とともに綴っていますね。インテリヤクザとの論争や、検事時代の告白など真に迫るシーンばかりで、田中さんがいかに論語の教えを血肉化して生きてきたかが伝わってきます。獄中ではどんな言葉に支えられましたか。

 論語の教えで最も重要とされるのは、他者への思いやりを表す「恕」、誠を尽くす「礼」、行くべき道である「義」です。励まされた言葉はたくさんあるけど、ワシはとりわけ「恕」、人への思いやりを大切にする生き方を今後の人生の基本にしようと思うようになった。

 論語は読む人の環境によってとらえ方が変わる奥深い本なんです。たとえば「子、川の上に在りて曰く、逝く者は斯くの如きか。昼夜を舎かず」という有名な「川上の嘆」という言葉がある。ワシは今までこの言葉を「人生は大河の水の流れのように瞬く間に過ぎ去る。だから絶え間ない努力をすべきだ」と前向きに解釈しとったけど、刑務所に入って考え方が変わった。仏教における無常観のようなものを孔子は言うてたんやないか、と儚さを感じるようになったんやね。前を向くばかりではなく、後ろを振り返るようになったとき、「恕」の精神を大切に生きなければならん、という気持ちはますます強まっていったな。

―本書を読んで、論語は万人に向けた「人生の指南書」だと思いましたが、あえて「ぜひこの人たちに読んでほしい」という要望はありますか。

 法曹の世界にいる検事や弁護士、官僚、医師といったエリートにこそ論語を学んでほしい。

 日本人の道徳観や倫理観には、論語の教えが深く浸透しとった。寺子屋の教育もそうだし、明治維新の志士たちもそう。それが今は失われてしまった。

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