2013.06.25
# 本

内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力
スーザン・ケイン(著),古草 秀子(翻訳)

〜はじめに――内向型と外向型 対照的な二つの性格について より抜粋

 交渉の場に臨んだローラはテーブルの下に隠れてしまいたい衝動にかられたが、そんな衝動と闘うのには慣れていた。神経質さを感じさせながらも、勇気を奮って中央の椅子に座り、その両側に製造会社の法務担当役員と財務担当責任者が着席した。この二人は偶然にも彼女の好きなタイプの人物だった。丁寧で柔らかな口調は、彼女の事務所の取引先によくいる「宇宙の支配者タイプ」とはまったく違っていた。以前から、この法務担当役員をヤンキースの試合へ招待したり、財務担当責任者と買い物に出かけて彼女の妹のハンドバッグを一緒に選んだりしたこともあった。だが、そうしたくつろいだ外出、ローラも楽しめる種類の社交は、はるか遠くの出来事のように感じられた。テーブルの向こう側には、仕立てのいいスーツを着て高価な靴を履いた硬い表情の投資銀行家が九人、そして、いかにもやり手らしい角ばった顎の潑剌とした女性弁護士。あきらかに自分を疑うことなど知らないタイプの女性弁護士は、銀行団の申し出がローラの顧客にとってどれほどすばらしい条件かを滔々と語った。これはとても寛大な提案ですと彼女は断言した。

 その場の全員がローラの発言を待ったが、彼女はなにを言うべきかまるで考えつかなかった。そこで、じっと座っていた。まばたきをしながら。視線が彼女に集まった。両側にいる顧客が椅子の上でもぞもぞ体を動かすのが感じられた。彼女の思考はいつものようにぐるぐる回っていた。私はこんな仕事をするには静かすぎるし、消極的すぎるし、思索的すぎる。彼女はこういう仕事にぴったりな人物を思い浮かべた。大胆で口達者でテーブルをどんと叩ける人。中学生の頃、そういう人はローラと違って、「社交性に富んでいる」と褒められ、クラスメイトのなかでは女の子でいえば「美人」よりも、男の子でいえば「スポーツ万能」よりも、格上にみなされていた。そんな思いを振りきり、ローラは覚悟を決めて、今この場を切り抜けさえすれば、明日になったら別の仕事をさがせばいいのだからと自分に言い聞かせた。

 そして、彼女は私がくりかえし言った言葉を思い出した。あなたは内向型だから、内向型なりの独自の交渉力を備えている――それはあまり目立たないかもしれないが、力強さの点で他人にひけをとらない。おそらく、あなたは誰よりも準備を重ねているはず。語り口は静かだが、しっかりしている。考えなしにしゃべることはまずない。柔らかい物腰を保ちながらも力強く、時には攻撃的とさえ思える立場に立って、理路整然と話す。そして、たくさん質問をし、答えに熱心に耳を傾ける。これはどんな性格かにかかわらず、交渉に強くなる秘訣なのだ。

 そこで、ローラはついにこの天賦の才を使いはじめた。彼女は訊いた。

「ワンステップ戻ってみましょう。そちらの数字の根拠は?」

「ローンをこのとおりに構築したら、うまくいくと思いますか?」

「本当にそうでしょうか?」

「ほかの案はありますか?」

 最初のうちは、ためらいがちに質問していた。だが、進むにつれて流れに乗り、口調に迷いがなくなり、下調べは十分してきたので事実を追及するぞという姿勢をはっきりさせた。それでも、自分のスタイルは変えず、声を大きくすることもなく礼儀正しさも失わなかった。銀行側が議論の余地はないと言わんばかりの主張をくりかえしても、ローラはひるまなかった。「それが唯一の方法だとおっしゃるのですか? 別のアプローチをしてみたらどうでしょう?」

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