2013.06.25
# 本

内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力
スーザン・ケイン(著),古草 秀子(翻訳)

〜はじめに――内向型と外向型 対照的な二つの性格について より抜粋

 そうするうちに、交渉スキルの教科書に書いてあるとおり、ローラの簡潔な質問の数々がその場の雰囲気を変えてきた。とても手に負えないと彼女が感じていた銀行側の人々は高飛車に演説をぶつのをやめて、ちゃんとした会話が成り立つようになった。

 話し合いが続いた。だが、合意には達しなかった。銀行団のひとりがまたもや声を張りあげ、書類を叩きつけて勢いよく部屋から出ていった。ローラはそれを無視した。どうすればいいかわからなかったのが、その大きな理由だった。それこそ「柔道なら技が決まった瞬間」だと、あとからある人に言われたのだが、ローラにしてみれば大声でやかましくしゃべる人たちの世界で生きる静かな人間として、ごく自然な行動をとっただけだった。

 最終的に、両者の合意が成立した。銀行団は去り、ローラの大切な顧客は空港へ向かい、ローラは自宅へ帰って、その日の緊張を解こうと、本を抱えてソファに丸まった。

 翌朝、相手側の弁護士が――いかにもやり手らしい角ばった顎の女性弁護士が――ローラに仕事を依頼する電話をかけてきた。「あなたみたいに感じがよくて、しかもタフな人に出会ったのははじめてよ」と女性弁護士は言った。その翌日、銀行団の幹事役が、自分の銀行を彼女の事務所に担当してもらえないかと電話で打診してきた。「自己主張に邪魔されないで交渉事にあたってくれる人材が必要なんだ」と彼は言った。

 ローラは自分なりの静かなやり方で、こうして新しい仕事を引き寄せたのだ。声を張りあげたりテーブルを叩いたりする必要はなかった。

 現在では、ローラは内向性が自分とは切り離せないものなのだと理解し、思索的な性質を喜んで受け入れている。静かすぎるし控えめすぎると自分を責める声が、頭のなかを駆けめぐることもあまりなくなった。その気になれば誰にも屈しないでいられることを、ローラは知っているのだ。

 私がローラは内向型だと言うとき、それは正確にはどんな意味だろう? この本を書きはじめたとき、最初に知りたかったのは、研究者たちが内向型と外向型をどう定義しているかということだった。一九二一年、著名な心理学者カール・ユングが『心理学的類型』(吉村博次訳)と題した衝撃的な本を刊行して、「内向型」「外向型」という言葉を軸にした性格理論を世の中に知らしめた。ユングによれば、内向型は自己の内部の思考や感情に心惹かれ、外向型は外部の人々や活動に心惹かれる。内向型は周囲で起きる出来事の意味を考え、外向型はその出来事に自分から飛び込んでいく。内向型はひとりになることでエネルギーを充電し、外向型は十分に社会で活動しないと充電が必要になる。ユングのタイプ論を基礎にした性格診断テストである〈マイヤーズ・ブリッグズ・タイプ指標〉は、全米の大学や〈フォーチュン1000〉企業の大半で採用されているので、読者のみなさんはすでにご存知かもしれない。

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