
ジョッキーに未練はない
「正直言って、ジョッキーにもう未練はないんですよ。いつ引退してもいいって思ってる。それが、いつになるかは分からないけど、やめる時は突然決めることになるでしょうね」
彼の口から飛び出した静かな言葉には、ある種の〝決意〟が籠もっていた。
騎手・藤田伸二(41)。 '91 年のデビュー当初から、武豊に次ぐ21年連続重賞勝利を飾り、ダービーや有馬記念、天皇賞など数々のGⅠタイトルを獲得。
それだけではなく、特別模範騎手賞2回、フェアプレー賞17回という前人未到の表彰歴からも分かるように、騎乗に対する姿勢で高い評価を受けている名ジョッキーだ。
その風貌や、ストレートな言動から〝番長ジョッキー〟の異名を持つ藤田が、このたび新著『騎手の一分』を上梓。現在17万部を記録している。
「引退」の二文字が浮かんだとき、これだけは言っておきたいと思った――。藤田がそう語る新著は、競馬界の危機的状況を綴る、衝撃的な内容になっている。
「今の競馬界は、ジョッキー自身にとって魅力を感じられなくなっている。その証拠に、この30年間でJRA所属の騎手は半数近くまで減ってしまった。なにも、体力的な理由で引退する人だけじゃない。昨年はまだ20代後半の若手騎手が8人も辞めたんです。
そのうえ、騎手を育成する競馬学校の応募者も最盛期の2割以下。このままでは、日本競馬界が衰退するのは目に見えている。その原因は、すべてJRAにあるとオレは思うんです」