2013.06.23
# 雑誌

医者に聞いても分からない「治るがん」と「治らないがん」「死ぬがん」と「死なないがん」ここが分かれ目です

週刊現代 プロフィール

 都立駒込病院名誉院長の森武生医師はこう話す。たとえば、ステージⅢbの直腸がんの場合、5年生存率は欧米では30%程度。だが、これまでに5000例以上の手術を受け持ってきた森医師の実績だと、5年生存率は60%を超える。逆に考えると、経験が浅い医者が手術を行えば、5年生存率はさらに下がる可能性ももちろんあるというわけだ。

 患者は提示される数字にとらわれてしまいがちだが、治るか治らないかの分かれ目は医者の「経験」と「腕」にも大きく左右される。

 また、ステージだけでは表せないがんの「悪性度」というものが存在する。自治医科大学附属病院病理診断部部長の福嶋敬宜医師が解説する。

「よく『がんの顔つき』と言いますが、がん細胞を調べることで、そのがんの悪性度を知ることができます。組織の乱れ具合やほかの組織への浸潤状況、増殖のスピードなどを予測できる。評価方法はがんの種類によっても異なっており、非常に複雑なのですが、悪性度を知ることで、そのがんの予後を予測することができるのです」

 スキルス性胃がん、小細胞肺がんなどは、一般的に悪性度の高いがんとして知られるが、がんができた臓器や場所などによっても治る可能性は異なってくる。

「がんと一口に言っても、さまざまな種類がありますから、ステージの分類だけ見ていてもだめなのです。がん治療に携わる医者にも多様な知識が必要となっているのが現状です」(化学療法研究所附属病院副院長・小中千守医師)

 医者にとっても複雑ながんの性質。それをたとえば医学知識のない高齢患者に、すべて説明して理解を求めるかといえば、そうする医者は多くはいないだろう。その場合、医者は経験上、完治せずに亡くなる確率がかなり高いと知りながら、「全力で治療に当たります」としか言わないということも起きる。

 患者に説明するかどうかは別として、医者たちには治るか治らないかを判断する場合に目安にしている基準がある。「他の臓器に転移をしているか」「多数のリンパ節転移があるか」「周辺の組織に深く浸潤しているか」という3つだ。

「他の臓器に転移があっても、転移ががんのそばのリンパ節だけに限られている場合は、手術をして治るケースもあります。しかし、この3つのどれかがあるがんは、原則的にはどんな治療をしようと治ることはありません」(前出・小野寺医師)

 このように「治る、治らない」の傾向が分かっていても、患者にはそれをハッキリと告げられない理由がある。日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之医師はこう言う。

「医療というものに『絶対』はないんです。『治る』というと聞こえはいいですが、100%治るがんなんて一つもない。ステージⅠだって術後に再発して全身転移で亡くなってしまうこともあれば、どんなに進行したがんの患者さんであっても、自然治癒で治ることもあるのですから」

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