2013.08.22

『世界の軍用犬の物語』戦場を駆ける犬

 しかし、ドイツの軍用犬には過酷な運命が待っていた。戦争に負けたドイツでは多くの軍用犬を賄うことができないとし、軍用犬の殆どが殺処分されたという。この軍用犬の運命はドイツに限らない。なんとアメリカではつい最近、2000年に至るまで海外に派遣され引退した軍用犬を安楽死させていたというのだ。また、検疫問題で置き去りにされる軍用犬も多く、ベトナム戦争では多くの軍用犬が置き去りにされるか安楽死させられている。実に悲しい事実だ。

 またソ連ではAT犬という戦車の下に潜り込み戦車を爆破する犬が第二次世界大戦で使われ、300両のドイツ戦車を破壊した。この伝統は現代のロシアにも受け継がれている。スペツナズが、高度な訓練を受けた犬に高性能爆薬と高性能無線起爆装置を搭載し、敵のミサイル基地や陣地を爆破させるための軍用犬を保有している。非情な話だが味方の人的被害と戦果とを合理的に突き詰めていくと、ときに人はこのような結論を導きだすのだろう。

 ところで、ハイテク兵器が目覚ましく発展する現代に、軍用犬など原始的ではないか。と思う人も多いのではないだろうか。しかし、本書によると各国の軍隊はむしろ軍用犬の数を増やしているという。

 イラクやアフガニスタンのような非対象戦争では、テロや小規模な襲撃にさしてハイテク兵器よりも柔軟性に優れ、様々な用途に使用できる軍用犬の役割は増している。特に現代では爆発物探知犬や地雷探知犬は重要な存在だ。フットボール競技場くらいの地雷原を人間が処理しようと思えば丸1日かかる仕事だが、地雷探知犬なら1時間済むという。

 アフガニスタンなどの仕掛け爆弾は、金属の使われていない単純な構造の物が多く、機械では探知できない可能性が高い。だが、爆発物探知犬ならば高確率で探知できる。今も戦場では多くの犬たちが兵士の命を救っているのである。もし自衛隊を国防軍隊にするのであれば、日本も再び本格的な軍用犬の運用を学ぶことになるだろう。(空自と海自では現在も歩哨犬が存在する)

 犬は私たちの友である。時に私たちの心を癒し、励まし、元気づけてくれる。また先祖たちは生きていくために必要な狩猟のパートナーとして犬たちを利用してきた。狼の一部が人間に家畜化されることを受け入れたとき、彼らと私たちの共生関係は生まれた。それは人間の営みにどこまでも深く犬たちが関わるということだ。当然ながら戦争という人間のもっとも本質的な部分にも、犬たちは深く関わることになる。人によっては、野蛮な行為に思えるかもしれない。しかし、私は本書を読んでその事の良否を問うとは思わない。ただ、遠い戦場で今日も命を危険に晒しながら、人に寄り添い、人の命を支えながら生きる犬たちが存在する。そしてそれは太古から変わることなく繰り返されているひとつの風景なのだ。

世界の軍用犬の物語

  • 作者:ナイジェル オールソップ
  • 出版社:エクスナレッジ
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内容紹介
スパイクを打った首輪をつけて敵に襲いかかった古代バビロニア時代の軍用犬から
今日の爆発物探知犬にいたるまで、犬と兵士は長い間「最良の友」であった。
軍用犬のハンドラーとしての豊かな経験がある著者ナイジェル・オールソップは、
いかに犬が信じ難いほどの能力を持っているか、
またその能力が軍隊と警察にとってどれほど不可欠であるかを解き明かし、
各国でのパトロール、警備、捜索・救助、その他多くの特殊な分野における
犬の活用法を説明する。
世界の50ちかい国々の機密度の高い情報が含まれている本書は、
この分野において入手できる最も信頼できる包括的な書物である。

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