2013.08.31

気を遣うメディアと、気を遣わせる視聴者の虚ろな距離感

寺田 悠馬 プロフィール

それは、氏の声にかぶせられた日本語の吹き替え音声が、本人の英語より柔らかな口調になっているからだろうか? もしくは、英語の台詞を和訳する際に、原文ほど単刀直入な表現を使っていないからだろうか?

不思議に思い、背後にかすかに聴こえる英語音声に耳を傾けたのだ。

視聴者の主体性をないがしろにする「配慮」

「ニュースウォッチ9」のインタビューが放映されるちょうど数週間前、ニューヨークのユーラシア・グループの方のご厚意で、イアン・ブレマー氏にお会いする機会に恵まれた。

近年のアメリカの衰退によって、リーダー不在の状況に陥った国際社会。その将来図を描いた著書『「Gゼロ」後の世界 主導国なき時代の勝者はだれか』をもとに、ブレマー氏は、日本がとるべき政策を熱心に語って下さった。その鋭敏な視点とダイナミックな存在感に、私はすっかり魅了された。

それだけに、「ニュースウォッチ9」に映された淡白なインタビュー映像は、不自然に思えてならなかった。ブレマー氏が多用する力強いハンドジェスチャーが、すっかり落ち着き払った日本語の吹き替え音声と、どうしても釣り合わないのだ。

私の中に、一つの疑問が芽生えた。イアン・ブレマーの物言いに視聴者が反感を覚えるのを懸念して、日本語の吹き替えを、あえて和らげているのだろうか?

テレビの音量を上げてみても、あいにく日本語音声が邪魔をして、もとの英語はほとんど聴こえない。だがところどころ、日本文が英文より短いため、もとの台詞の文頭や文末がかろうじて聴きとれる箇所があった。そしてこの英語と、吹き替えの日本語を比べると、ニュアンスの違いが気にかかった。

例えば、経済成長著しい中国のGDPが、いずれアメリカのそれをも上回るであろうことについて。日本語の吹き替えは、米中の力関係のシフトが「スムーズにいくとは思えません」としているが、実際のブレマー氏は、「スムーズにいくのはほぼ不可能である("…it is almost impossible…")」という、より強い言い回しを用いていた。

また日本のTPP参加について、吹き替え音声は「日本は参加すべきです」という「提案」に留まっているが、原文は、「日本は参加しなければならない("…Japan must do this…")」という、「提案」よりはむしろ「断言」に近い表現が使われていた。

些細な違いと思われるかもしれないが、こういった言い回しの差異の積み重ねで、表現の全体的な印象はずいぶん変わる。元の台詞の大半が聴こえないため真相は分かり得ないが、ともすると「ニュースウォッチ9」は、視聴者の心情に配慮し、アクの強すぎるイアン・ブレマーを「中和」してお茶の間に届けようとしたのだろうか?

そう首をかしげているうちにインタビューは終了し、映像はNHKのスタジオに切り替わった。神妙な表情でたたずむキャスターの大越氏をカメラが捉えると、氏は視聴者に向かってこう語り掛けた。

「ストレートな物言いに、反発を覚えたという方もいらっしゃるかもしれません。しかし(中略)甘い認識からは早く抜け出す必要があると、インタビューをしながら痛感しました」

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