2013.09.04
# 脳科学

「切れば血が噴き出る」連続講義が結実!『単純な脳、複雑な「私」』

池谷先生「一番好きな本」の前書き公開
池谷 裕二 プロフィール

 前著『進化しすぎた脳』はすでにブルーバックスに収められています。本のスタイルは似ていますが、内容はほぼ独立していますので、どちらから読んでいただいても問題ありません。もし一方を読んで気に入ってくださったら、もう一方にも手を伸ばしていただけたらと思います。この二冊があれば、脳の不思議を、十二分に探究できると思います。

 本書を理解いただくためにも、『単純な脳、複雑な「私」』の成り立ちについて、少し説明しておきましょう。

 この講義は、朝日出版社の赤井茂樹さんに、私から提案して実現したものです。赤井さんがアレンジした前作『進化しすぎた脳』が当時好評で、その評判に鼓舞されたこともありますが、なにより、私自身の出身校に戻って、後輩たち相手に、私の専門である脳について講義をしたいという思いがありました(『進化しすぎた脳』は慶應義塾ニューヨーク学院高等部での講義録です)。

 準備は慎重に進められ、提案から講義の実現まで3年を費やしました。

 連続講義の企画では、まず全校生徒に対して講演を行うことにしました。〝いまどき〟の高校生たちの様子を窺い、連続講義へ照準を合わせるための準備ステップです。高校生の脳科学に対する反応はどうだろうか。若者たちの理系離れはどの程度なのだろうか。

 杞憂でした。予想以上の手応えがあります。

 そこで、さらに興味を示してもらえた生徒たち9名に声を掛けて、春休みに集中講義を行いました。3日間にわたる連続講義です。

 本書は一連の講義を録音テープから再現したものです。したがって、全校講演(第一章)と集中講義(第二~四章)の、全4つのパートから成り立っています。

 講義の一貫したテーマは「心の構造化」です。ここでは「心」を、意識と無意識を含めた脳の作用全般といった広い意味で使っています。

 人は何を根拠にものごとを決断するのか。過去の記憶にはどんな意味があるのか。特定の異性を好きになってしまうのはなぜか。赤色はなぜ赤色に見えなければいけないのか。現実と夢を区別できるのはなぜか……。

 心はだれもが持っていますし、その不思議さについて一度は思いを巡らせたことがあるでしょう。

 脳機能が停止すれば心は消えます。だからといって「心が脳から生まれる」と主張するのは危険です。必ずしも間違ってはいないものの、そうとは言い切れない側面もあるからです。

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