2013.09.04
# 脳科学

「切れば血が噴き出る」連続講義が結実!『単純な脳、複雑な「私」』

池谷先生「一番好きな本」の前書き公開
池谷 裕二 プロフィール

 次のように考えれば納得していただけるでしょうか。もし先の理屈が通るのなら、心臓を停止させても心が消えるから(それは当然でしょう)、「心は心臓にこそ宿る」と主張してもよいことになります。なんとなく妙な気がしてきませんか。

 実際のところ、私たちが自力で思索して考え至る「心」のしくみは、的を射ていないことも少なくないようです。「心」を使って「心」を投影する限り、どんなに冷静に思考を進めても、独りよがりになってしまいます。

 つまり、脳について考えるためには、それ相応の作法が必要なのです。とくに大切な作法は、

  ①脳の立場になって考えること
  ②心を外から眺めること

の2つです。とくに②は忘れがちです。

 たとえば、自分が運転している車について正しい状況を知るためには、運転席から外を眺めているだけではダメで、一度は車外に出て、外観を検査したり、ボンネットを開けてエンジンを調べたりしなくてはいけないでしょう。

 これと同じことで、心を知るためには、脳の内側から妄想をふくらませるだけではダメで、その機能を外から解剖する必要があります。自分の殻に閉じこもったまま得られた「心」の像は、きっと独善的な偏見に汚染されているに違いありません。

 講義ではこうした作法を踏まえつつ、現在までにわかっている実験結果から、何が言えて、何が言えないのかを整理してゆきます。とりわけ、現役脳研究者としての利点を活かして、切れば血の吹き出すような新鮮な情報を提供しながら、高校生たちと対話することを心がけました。

 講義の時間が限られていましたので、研究デザインや実験データを、シンプルにかみ砕いて説明したところもあります。厳密さを重んじる研究者気質として、単純化や歪曲化の作業には、なんとも言えないもどかしさが残ります。より専門的な内容を知りたい方のために、本書の末尾に原書論文のリストを載せました。ご活用いただければと思います。

 講義で解説に用いた映像は、ウェブ上で見られるように特設サイトを用意しました。ページ上部にあるパラパラ漫画は第四章で説明します。単純なルールから複雑なシステムがどんなふうに生成するのか。そのイメージを膨らませるための一助になれば幸いです。

 それでは講義を始めましょう。脳研究者たちは、脳をどう捉え、どう解釈しているのでしょうか。どんなアイデアや技術を駆使して神秘に挑んでいるのでしょうか。そして、脳を知ることで、私たちの生活スタイルはどんなふうに変わるのでしょうか。心躍る脳科学の深海に一気にダイブしてみましょう。


目次
第1章 脳は私のことをホントに理解しているのか
第2章 脳は空から心を眺めている
第3章 脳はゆらいで自由をつくりあげる
第4章 脳はノイズから生命を生み出す

著者 池谷裕二(いけがや・ゆうじ)
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。現在、東京大学大学院薬学系研究科准教授。脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求をつづける。日本薬理学会学術奨励賞、日本神経科学学会奨励賞、日本薬学会奨励賞、文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞などを受賞。主な著書に『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』(ともに講談社ブルーバックス)、『脳はなにかと言い訳する』(新潮文庫)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社)などがある。
『単純な脳、複雑な「私」』
または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義

池谷裕二=著

発行年月日:2013/09/20
ページ数:480
シリーズ通巻番号:B1830

定価(税込):1260円
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)

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