2013.11.04
# 本

ハード・ノンフィクションの巨匠、溝口敦著 『溶けていく暴力団』
第三章「飛んでる半グレ集団」全文公開!

『溶けていく暴力団』
著:溝口敦
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警察庁もさすがに半グレ集団の捜査体制不備を痛感したのだろう。一三年三月、半グレ集団を「準暴力団」と位置づけ、その実態解明と摘発強化を全国に指示することを決めた。

朝日新聞は「『準暴力団』を新設 関東連合と怒羅権を認定 警察庁」と見出しにうたい、次のように報じている(一三年三月七日付夕刊)。

〈警察庁は7日、暴走族「関東連合」元メンバーと「怒羅権(ドラゴン)」メンバーの一部が、それぞれ暴力を用いて集団犯罪を繰り返しているとして、両集団を「準暴力団」と呼んで取り締まることを決めた。
警察庁は、準暴力団を「暴力団のように組長をトップとする上下関係のはっきりした組織ではないが、所属する者やOBが集団で常習的に暴力的不法行為を行う」と定義。暴力団対策法などに基づく指定や認定ではなく、「治安を脅かす新たな反社会勢力」と位置づけている。ほかに同様の集団がないか調べるよう全国の警察本部に指示した。ただ、既存の暴力団と結び付いて犯罪組織化している実態もあり、取り組みの遅さを指摘する警察幹部もいる。(以下略)〉

警察vs.半グレ

当面、対象とするのは暴走族から発した元「関東連合」OBと「怒羅権」OBのようだ。暴対法によれば、「暴力団」とは「その団体の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」である。

前記二組織のメンバーの中には振り込め詐欺や攻略本詐欺、エロサイト詐欺、投資詐欺などを専業とする経済グループがある。彼らのシノギは詐欺で知能犯的だから、「集団的、常習的な暴力」とはほとんど関係がない。にもかかわらず、彼らも新設の「準暴力団」に繰り込もうというのは、木に竹を接ぐような違和感がある。

暴対法では暴力団を「指定」しないことには意味がないのだが、「指定暴力団」は、その暴力団の組員が組の威力を利用して生計の維持、財産の形成、又は事業資金を得させるため、組の威力を組員に利用させ、又はそのことの容認を実質上の目的とする団体であり、かつ組長の統制の下に階層的に構成されている団体である――などの条件が必要となる。

半グレ集団は広く知られるように、誰がトップなのか明確でない。関東連合のトップは見立真一容疑者と、ある程度根拠をもって名指ししたのは、工藤明男氏『いびつな絆~』が最初だろう。年別の「総長」もいたし、石元太一容疑者のように、元一六代目総長として現在も関東連合トップに祭り上げられる者もいる。

内部でいくつか派が分立しているというのはほぼ定説だったし、トップとメンバーとは親分―子分関係ではなく、先輩―後輩関係が基本である。組織がピラミッド型に構成されているわけでもない。

彼らを暴力団に準ずる組織として「指定」するのは、そうとう無理がある。もっとも警察庁の思惑が、これまで暴力団の摘発専門でやってきた組織犯罪対策課が、これからは半グレも扱うということにあるなら、試してみる価値はあろう。

融合か、共闘か

たしかに半グレ集団と暴力団が共闘する場合、半グレ集団が暴力団の庇護を求めて組員になる場合がある。これらの現象をもって半グレ集団と暴力団の融合が進んでいると見るわけにはいかないが、かといって両者は反目し合うばかりではない。

両者の共闘を物語る典型的な事件がある。

一一年一二月一四日、午前二時五〇分ごろ、東京・六本木のキャバクラに二〇人ぐらいの男が押し掛け、店内にいた山口組直系落合金町連合の幹部ら四人をビール瓶で殴るなど、暴行を加え、素早く逃走する事件が起きた。

殴られた落合金町連合の幹部は意識不明の重体、残り三人も頭などに重軽傷を負った。

被害側は山口組直系落合金町連合の三人と山口組直系極心連合会の破門された元組員一人。加害側は住吉会系幸平一家―義勇会と関東連合、怒羅権の混合グループだった。

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