2013.11.04
# 本

ハード・ノンフィクションの巨匠、溝口敦著 『溶けていく暴力団』
第三章「飛んでる半グレ集団」全文公開!

落合金町連合は一一年一〇月、山口組直系國粹会の若頭をつとめた落合一家・佐藤光男総長が内部昇格の形で山口組の直参(直系組長)に抜擢され、新たに落合金町連合として分派独立した。つまり東京の山口組直系組織はそれまで國粹会だけだったが、もう一つ、落合金町連合が加わったわけだ。

落合金町連合は金町一家、保科一家、落合一家、草野一家ほか十数団体で構成され、都内や近県に縄張りを持つ潜在力の大きな組織である。組内ナンバーツーの若頭には保科努・保科一家総長が就いたが、この保科一家が六本木で難に遭った。

他方、住吉会系幸平一家(加藤英幸総長、住吉会渉外委員長)は山口組さえその戦闘力に一目置く組織で、傘下には新宿や東中野などを仕切る堺組や加藤連合会、義勇会などがあり、これらは関東連合や怒羅権など暴走族OBを一部、組員に組み入れている。

事件の襲撃方法は半グレ的である。多数が大挙して拳銃や刃物などを持たずに現場に押しかけ、手近のボトルなどで暴行を加える。ビール瓶や酒のボトルなら殺意はなかったと弁明できるし、組に加入していない半グレなら暴対法も暴排条例も適用されない。

事件の発生から一週間たった二一日、早くも両派は手打ちを決めた。

被害に遭った落合金町連合の保科一家はボコボコにされた四人のうち一人が脳挫傷で生死の境をさまよったが、とりあえず一命はとりとめた。死ななかったことで手打ちを受け入れたと伝えられる。

加害側の住吉会幸平一家と半グレ集団(関東連合、怒羅権)が被害に遭った山口組側に差し出した補償額(見舞金)がいくらかは諸説あったが、一説に幸平一家が二〇〇〇万円、暴行に加わった半グレ集団が五〇〇万円、計二五〇〇万円とされる。

外れる目論見

警視庁の捜査関係者は当時、心外そうに感想を洩らしていた。

「キャバクラに乱入して落合金町連合をボコボコにした二〇人のうち一三人までは特定していた。捜査本部を立ち上げ、これから摘発にかかろうというとき、手打ちされたので拍子抜けした。

おまけに二五〇〇万円がほんとの話なら、幸平一家と半グレ集団連合軍のやりどく、落合金町連合のやられ損だ。最低五〇〇〇万円は固いと予想していたから、なんで急いで手打ちなんだと思った」

警視庁としては事件で暮れも正月もないと手ぐすね引いていたところ、あっさり和解となって、ガックリ来た。というのは、事件を半グレ集団実態解明のチャンスと踏んでいたからだ。

法曹関係者が警視庁の思惑を説明した。

「六本木のビール瓶殴打事件を担当するのは普通の刑事課では無理で、やはり暴力団担当の組織犯罪対策課が乗り出すべきだろう。

だが、関東連合や怒羅権など半グレ集団は今のままでは暴力団対策法に引っかからない。そのため彼らのデータを集めて、なんとか暴力団対策法を適用できないか検討中だった。

関東連合や怒羅権のOB連中は有利と見れば、どこにでもくっつく。住吉会ばかりか、稲川会にも山口組にも籍を置く奴がいる。で、警視庁は関東連合OBを山口組系の流れを汲む組織と認定できないか、研究していた。

ところが山口組に近い連中は本体の山口組同様、警察に警戒的で、なかなかケツ持ち(後見)は山口とか、吐かない。おまけにこの事件では住吉会といい仲で、むしろ山口組に敵対したことを明かした」

つまり警視庁はこのころから半グレ集団を山口組系の「準暴力団」として扱えないか、虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた。山口組系と認定できるなら、関東を地盤とする住吉会や稲川会の協力を得られ、関東から半グレ集団を排除できる確率が高まる。しかしこの六本木キャバクラ事件では逆に住吉会との共闘が浮上してしまった。

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