2013.11.04
# 本

ハード・ノンフィクションの巨匠、溝口敦著 『溶けていく暴力団』
第三章「飛んでる半グレ集団」全文公開!

匿名性が要件

半グレ集団は定見なく、暴力団と反目したり、庇護(ひご)を受けたりした。山口組や住吉会、稲川会などの傘下組織と結んだり、敵対したりで方向は定まらない。同様に警察も定見なく、半グレ集団が山口組系なら摘発しやすいと根拠もなく願っていた。しかし半グレ集団を暴対法でという方針そのものが無理だろう。半グレを知能犯罪集団と位置づけた上、暴対法を「反社(反社会的勢力)対策法」に組み替えるぐらいでないと、「打つ手なし」のままだったが、半グレ集団と同様、行動は安易に、安易にと流れていた。

こうした流れからいえば、これまでの関東連合は暴力派が牛耳ることで目立ちすぎた。これからの関東連合は半グレ集団の特性のうち、とりわけ匿名性、隠密性を厳守することで半グレという存在を続けて行くにちがいない。

暴力団は相手に直接、間接的に自分を暴力団組員と認識させることで威迫や恐喝を行う。つまり知られてナンボの世界だ。対して半グレ集団は所属の団体やグループ名を相手に知らせる必要がない。たとえば関東連合OBが経営するクラブでコカインやMDMA(合成麻薬の一種)を売るにしろ、売り手が関東連合OBだから、薬物の純度が保証されたも同然という評価は成り立たない。逆に誰が売っているのか買い手に分からない方が警察の摘発を免れる条件になる。

半グレ集団が営む商売(シノギ)の種類にもよるが、大抵、メンバーやグループの名、経歴、所在地などいっさいの属性を隠した方がシノギはスムーズに長期安定して進む。オレオレなどの振り込め詐欺、新規上場株詐欺、投資情報詐欺、攻略法詐欺、出会い系サイトの運営、インターネットカジノへの誘い込み、ネット利用のドラッグ通販、ヤミ金の経営などを考えれば秘匿性、匿名性が彼らの商売の要件であることは明かだろう。

振り込め詐欺で振り込まれたカネをATMから引き出す役は出し子と呼ばれるが、詐欺を実行するグループと出し子を峻別(しゅんべつ)し、出し子にグループの情報を与えないことは振り込め詐欺の鉄則である。ヤミ金でさえ、利用者から反撃されないよう、利用者に知らせるのは自分の携帯番号だけといった風に自分の属性を極力秘匿する。

深く広く静かに

つまり関東連合は半グレ集団の本性に立ち返るのであり、半グレ集団は今後、間違っても暴力的なスターをつくるような愚は犯さず、ますます何食わぬ顔をして一般人を食い物にしていくはずである。

東京の怒羅権はこれまでも関東連合に比べ動きが目立たなかったが、今後も潜行路線をたどるようだ。中国残留孤児の二世、三世が中心という誕生から中国、中でも東北部に強かったが、ますます東アジアの要所に展開し、日本警察のフォローを断ち切る戦略らしい。半グレ集団は深く静かに潜行するばかりでなく、広く浅く浸透もしていく。

他の半グレ集団も同様に水面下に沈んでいく。たとえば大阪の強者(つわもの)は一三年一月大阪府警に解散届を出した。

「これは極心連合会の当時の若頭・山下昇(現相談役)が口をきいて届けを出させたのだが、徹底したものではなかった。で、その後、極心連合会本部長・浅野俊雄(現若頭)が強者に解散届を出し直しさせた。こちらは名実ともに備わっている。強者は解散です」(府警詰め記者)

早くも「強者」という看板が邪魔になって投げ捨て、以後は個人や小グループで勝負ということだろう。

というわけで、関東連合衰退後の六本木や歌舞伎町、大阪ミナミなどは暴力団や別の半グレ集団が埋めるわけではなく、それら以下の「不良」たちが跋扈することになるはずだ。全国の盛り場はハデに斬った張ったのドラマ性を失い、今以上に散文化すると見ていい。

『溶けていく暴力団』
著者:溝口敦 定価882円(税込)
 
◆内容紹介
大ベストセラー「暴力団」「続・暴力団」を手掛け、講談社+α文庫の闇モノシリーズは累計60万部に達する巨匠・溝口敦が、自身、「最後の闇モノ」として望む、「裏社会の今」を暴く決定版。衰退する暴力団の現状と今後、半グレ集団などの因習にとらわれない新たな暴力の実像と展望、そして、われわれ市民社会が、溶けるように私たちの生活に食い込んでくる暴力の兆候、背景をどう見抜き、どう対処すべきかを綿密な取材と、豊富な見識から説く。
 
◆溝口敦(みぞぐち・あつし)---ノンフィクション作家。ジャーナリスト。1942年、東京に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。出版社勤務などを経て、フリーに。著書には『暴力団』『続・暴力団』(以下、新潮新書)、『歌舞伎町・ヤバさの真相』(文春新書)、『パチンコ「30兆円の闇」』(小学館文庫)、『武富士サラ金の帝王』『食肉の帝王』、さらに『ヤクザ崩壊、侵食される六代目山口組』『血と抗争 山口組三代目』『山口組四代目 荒らぶる獅子』『ドキュメント 五代目山口組』『武闘派 三代目山口組若頭』『撃滅 山口組 vs一和合』『四代目山口組 最期の戦い』(以上、講談社+α文庫)などの一連の山口組ドキュメントがある。常にきわどい問題を扱い続けるハード・ノンフィクションの巨匠。『食肉の帝王』で、第25回講談社ノンフィクション賞を受賞した。
 

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