2013.12.08

官々愕々「減反廃止」という似非改革

〔PHOTO〕gettyimages

「減反廃止決定」というニュースが各紙の一面を飾った。

農業は常に成長戦略の柱だった。しかし、農協、農水族議員、農水省という鉄のトライアングルの抵抗によって改革は頓挫し、結局、日本の農業は衰退の一途をたどってきた。これまで何の成果も出せなかったアベノミクス第三の矢には、マーケットでも失望が広がっていた。戦後農政の根幹である減反政策の廃止というニュースのインパクトは大きかった。

ところが、農協も農水族議員も多少の反対はしたが、いやにあっさりと引き下がった。おかしいなと思ったら、農水省から、今回の政策変更によって農家の所得は増加するという試算が発表された。

当初、「減反廃止」と前向きに報じていた報道各社も、どうも騙されたのではないかと感じ始めた。しかし、今さら、「戦後農政の大転換」と報じたのは間違いだったと言うわけにもいかず、補助金が結果的に増えそうだということをとらえて、若干の批判的な論調を加えてお茶を濁している。

しかし、そんないい加減な記事を書かれたら、国民はまたしても安倍政権の「詐術」によって騙されてしまう。

そもそも、減反の本質は何か。コメの生産量を減らして米価を高止まりさせる政策だ。減反は目的ではなく、手段に過ぎない。政策の目的は、あくまでも「米価維持」である。それは、農家の収入を維持するだけでなく、農協のコメ販売手数料を維持することにもなる。

さらに農協は、兼業農家の兼業収入を当てにして銀行・保険業務を行ってその収益の大半を稼いでいる。価格維持政策をやめれば、規模の小さな兼業農家は廃業に追い込まれる。農協からみれば死活問題だ。

安倍総理は日本の農業の輸出を倍増し、成長産業にしようと言っている。そのために何が必要だろうか。第一に、価格競争力をつける。つまり、米価を下げることが必要だ。第二に、輸出を伸ばすのだから生産増加も必要になる。第三の条件は、収益性の向上。大規模化も必要だが、米、加、豪などに規模では勝てない。高付加価値化で勝負するしかない。
その観点から今回の政策を見ると、全く逆の政策になっている。

農家が自主的に生産量を決める仕組みにすると言いながら、主食用米の生産が増え過ぎないように、飼料用米に対する補助金を大幅に増やすという。それでも生産が増え過ぎたら、主食用米を飼料用米に転用する。これでは、主食用米の供給は増えず、価格も下がらない。おまけに、主食用米から、付加価値が圧倒的に低い飼料用米の生産にシフトさせてしまう。前述の三つの条件全てを成立させないようにしている。

飼料用米に補助金を増やせば、農地を手放す兼業農家も減り、大規模化も進まない。つまり、今回の「減反廃止」は、これまでの政策の本質をそのまま維持する「似非改革」なのだ。

しかも、株式会社の農業参入全面解禁、農業委員会制度の廃止、農協の金融業務の分離や独禁法適用除外廃止といった改革の本丸は全く手付かずのまま。年明けにまた、まやかしの部分的な「改革」で国民を騙すに違いない。

TPPでコメの関税を廃止すれば、米価は大幅に下がるはずだ。ワーキングプアの若者もおいしいコメをもっとたくさん食べられるだろう。それでも競争できる農家や企業が農地を集約化して生産を増やし、おいしいコメを世界に輸出する。それで、農協がつぶれても何の問題もない。「米価維持政策の廃止」こそが、今最も必要なことだ。農業の「衰退戦略」をいつまで続けるのだろうか。

『週刊現代』2013年12月14日号より

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