連日企業へ会社説明会を聞きに行く学生と同じように、高木も戦力外通告を受けたその日から西武OBや恩師に話を聞きに行った。
「大げさでなく、ありとあらゆるところに相談に行きました。でも結局、誰かに聞いても答えが出るわけじゃないんですよね。自分の人生は自分で決めるしかない。私が出した結論は、球団職員になり、育ててもらった西武に恩返しをするというものでした。
当時から選手のセカンドキャリアは問題視されていました。だからこそ、私のようなプロ経験者がフロントにいれば、一つの道を示せると思ったんです。ただ不安は相当ありました。なにせそれまで、名刺は持ったことがない、社用電話に出たこともない、キーボードなんて触ったこともない、という状態でしたからね。30歳を過ぎた男が、初めてのことだらけのサラリーマンになるのは、並大抵のことではなかった」
それでも、約6年間、高木は職員としてがむしゃらに働き、手応えをつかみ始めていた。しかし一昨年、サラリーマンゆえの苦難に直面する。突如プリンスホテルへの異動が言い渡されたのだ。
「冗談でしょ、という気持ちでした。細かい理由は通告されなくて、いいから行って来いと。
ホテルでの役職はマネージャー。一般企業で言えば、課長でしょうか。担当は企画広報。プロモーションや催事関係などの業務を行っています。置かれた場所で咲く、それもサラリーマンですよね」
予期せぬ人事に驚きながら、高木はいま、懸命にホテルマンとしての業務に取り組んでいる。
「私の入れ歯はどこじゃ」
「はい、ここにありますよ」
つくば市にあるデイサービス桑林で、老人とそんな会話をしているのは、元巨人の財前貴男(27歳)だ。
'11年に育成ドラフト5位で巨人へ入団。しかしケガに泣かされ、一軍での出場経験を得られないまま、'12年に戦力外通告を受けた。
その財前はいま、このデイサービスでヘルパー見習いとして働いている。
「いままであまり勉強してこなかったので、机に座って教えられるよりは、自分で実践して覚えていくほうが性に合っています。ただ、野球と介護では全く勝手が違いますけどね」
財前がケアしているのは、車いすや寝たきりの老人およそ30人。風呂やトイレの介助、おむつの交換などが主な仕事だ。