「もちろん、仕事は大変です。お年寄りのなかには、わがままを言う人もいれば、引っ込み思案な人もいる。一人一人性格が違いますから、仕事に正解がないんですよ。人間を相手にする仕事は本当に難しい。でも不思議と『辞めたい』とは思っていません。ここのお年寄りたちは、それぞれが『時代』を生きてきている。話していると、こちらが勉強させてもらっているような気になります」
プロスポーツはプロ野球とJリーグだけではない。元プロバスケットボール選手の山崎哲男(31歳)も、引退して、はじめての就活を経験した。
小学6年からバスケットを始め、中・高・大とバスケ一筋だった山崎は、'06年に地元チームの高松ファイブアローズに入団した。
「ただ、プロの壁は厚かったですね。外国人選手に太刀打ちできず、ほとんど試合に出られないまま、'07年に戦力外通告を受けました」
一度はツテで高松市内の不動産管理会社に就職し、営業畑で結果も残したが、30歳を目前にして、山崎はその職を手放す。
「明確な目標もないまま不動産会社に入り、その仕事を一生続けていいのか、と考えるようになったんです。俺のしたいことは何だ、と、生まれて初めて自分の気持ちと向き合った。その結果、出た答えが警察官でした。私は自分が地元に直接尽くせる仕事をしたかったんです。そこで会社を辞めて、退路を断ち、猛勉強して香川県警の採用試験に挑戦しました」
栄光が忘れられない
採用試験の結果、山崎は合格。こうして30歳の新人警察官が誕生した。190cmの長身、「存在自体が防犯につながる」という期待もあり、県内屈指の繁華街を守る交番に配属された。
そこでの山崎の評判に注目した香川県警は、今春、全国で初めてプロ経験のあるアスリートへの優遇措置を設けた。200点満点のうち100点が合格ラインである試験に、元プロは最初から40点を加点するというものだ。
しかしその新制度も虚しく、今春受験した元プロ選手は、全員合格点に達しなかった。この結果が、スポーツだけに人生をかけてきた元プロが、一般の採用試験を通過するのがいかに困難かを証明している。
代打本塁打数の世界記録を今も保持する、元阪急ブレーブスの高井保弘(68歳)が、プロ生活よりも長くなった「その後の人生」を振り返る。
「37歳で引退してから44歳まで、兵庫の西宮で飲食店を経営していた。最初は好調やったけど、一人で切り盛りしているうちに体調を崩して、閉店。その後は、店のすぐ近くで整体治療院を始めた。ゴルフしてあちこち痛いからみてくれとか、農家の人の肩こりとか、これも最初はまずまず順調だったね」