ところが開業の翌年、阪神淡路大震災が起きる。店舗が入っていたビルも自宅も壊滅状態になった。
「あのときは、何を始めたらいいかわからんかった。周りもみんな大変で、自分の商売の心配ばかりもしていられなかったしな。そして、それから数年、ぶらぶらしとった。でも、働かないと当然メシが食えない。それで、52歳のとき生まれて初めて『就活』したんです」
とはいえ、52歳での再就職は簡単ではなかった。ある日、社員募集のチラシを見て応募した会社の面接官のなかに、たまたま現役時代の高井のファンがおり、何とかビル管理会社への就職が決まった。
「それからずっと伊勢丹のホールのセキュリティ担当です。ホールのお客さんに頭を下げて挨拶しないといけないのが、最初は抵抗あったなあ。プロ野球選手のときはふんぞり返っていたからね。でもちゃんと挨拶しないと、後で年下の上司から嫌味を言われるから、やるしかない。
プロにまでいったアスリートが、すぐにサラリーマンになるのは、やっぱり難しいよ。私のように人生、思い通りにはいかないというのを経験していないと、過去の栄光がなかなか忘れられないからな」
光の当たるプロスポーツの世界を去り、「社会人」の一歩を踏み出した男たち。現実は厳しいが、それぞれがそこで新たな道を懸命に模索している。
「週刊現代」2013年12月16日号より