仕事のため上海に出張していた東京・八王子在住の会社員男性。現地で鳥インフルエンザに感染したことに気づかず、帰国後も毎朝、満員電車に乗って丸の内にある会社に通勤していた。
帰国から4日後、39℃の高熱を発する。病院へ行って検査を受けると、中国で流行している鳥インフルエンザに感染していることが判明する。
インフルエンザの潜伏期間は1週間程度だが、その間もウイルスは感染能力を持つ。通勤列車内やオフィスなど、さまざまな場所で拡散していた。
この時点で、首都圏の感染者は推定715人。H7N9型の場合、残念ながらいまのところ予防ワクチンは流通していない。このままいくと、3日後には、12万7000人にも感染者が膨れ上がる。
パンデミックが起これば、最終的に、患者数は都民の約30%、約380万人に及ぶ。ピーク時には1日に37万人もの患者が病院に押し寄せ、外来は数時間待ち。待合室で、さらに感染が拡大していくという悪循環……。入院が必要な患者は29万人を超えるため、当然、都内の病院ですべての患者を受け入れられるはずもない。多くの「インフルエンザ難民」が発生してしまう。
遺伝子変異を繰り返すことで、タミフルなど抗インフルエンザ薬に耐性を持つウイルス型も出てくる。最悪の場合、都内だけでも死亡者は1万4000人。これだけの人数が短期間に集中して亡くなると、火葬場の不足という緊急事態も発生する。その場合、都の公共機関を遺体安置所にしたり、公園に一時的に埋葬、民間の冷蔵倉庫を遺体安置に利用することまで想定されている。
経済的な損失も、甚大なものとなる。第一生命経済研究所の主席エコノミスト・永濱利廣氏はこう指摘する。
「まず考えられるのは、鶏肉や卵の消費が激減すること、そして、海外から鶏肉の輸入停止、輸出も落ち込むでしょう。
ヒトからヒトに感染することになれば、さらに影響は大きい。'05年時点での試算では、名目GDPが6768億円のマイナスになりました。
ただし、それだけでなく、今年の日本経済は、4月の消費税増税を控えています。このタイミングでパンデミックが起こったら、まさに泣きっ面に蜂。相当大きなダメージを受ける可能性があるのです」
さらに言えば、多くの企業で欠勤者が急増し、学校は次々に休校となる。電車や飛行機などの交通網は運行数が減らされ、外出を控えて自宅にこもる人が続出。そのため、食料品などの買いだめが発生する。あらゆる商品の流通が停滞し、もはや都市機能が完全に麻痺—ようやく自分の足で歩き始めた日本経済も、鳥インフルエンザが猛威を振るえば、あっという間に崩壊してしまう。
その感染源となる人間は、いま、あなたの横を歩いているかもしれないのだ。
「週刊現代」2014年2月15日号より