2014.05.23
# 天体観測

『天体衝突 斉一説から激変説へ 地球、生命、文明史』

天体衝突は杞憂か
松井 孝典 プロフィール

「杞憂」が杞憂でないことは、地球史や生命史において、その歴史観が、斉一観的漸進説から激変説へと、パラダイムシフトしたことを意味する。それは、現在生起する自然現象を基に過去を考える(これが斉一観的漸進説の意味)際、現在という時間スケールをより長くとるということである。例えば、文明史に関しても、現在を1万年とか10万年とかという時間スケールで考えることである。

そのように考えると、彗星の出現と分裂、その破片の地球への衝突という現象は、神話や聖書などの古文書に記されている表現と奇妙に符合する。それはまた、仮想的動物である龍との関わりも指摘できる。世界中の神話あるいは伝承に、火を吹きながら天空をまたにかけて駆け巡る龍の話が登場する。中国の伝承では、龍は普通、小さな水蛇とか、トカゲの形で孵化し、その形を大きく変えるといわれる。水蛇は500年かけてキャオに変わり、キャオは1000年でラングに、ラングは500年たつとキオラング(角のある龍)に、そしてさらに1000年たつとユインラン(翼のある龍)になる、というのである。

これは、天に出現した短周期彗星の進化の様子を記述したように解釈できる。太陽から遠くにある時は、かすかに小さく見え、近づくにつれ、その見える姿を大きく変えるさまを表しているのではないだろうか。天空における位置も、太陽との相対的大きさも明るさも、日ごとに変わり、さらにその分裂や、その後の破片の地球への衝突や、流星雨などの現象を想像してみるとよい。

神話時代の人々には、それは、天空における神々の争い、あるいは神すなわち英雄と龍との争いとして見えたと思えなくもない。パエトン神話とか、古代ギリシャのアポロン対ピュトン、テュポン対ゼウスという戦いの神話を思い出してほしい。それを、天空における現象の神話的表現と解釈するのは、それほど荒唐無稽な推論とは思えない。

(まつい・たかふみ 東京大学名誉教授)


恐竜の絶滅は、直径10kmの小天体の衝突によってもたらされた。地球と生命の歴史に巨大な影響を与えた天体衝突の真実に迫る。

地球と生命。どちらも、日々起こる小さな変化の、長い間の積み重ねによって進化してきたと考えられてきた。これまでは、その方が「科学的」に思われたからだ。しかし、現実はまったく違っていた。地球と生命は、「天体衝突」という突発的な大事件によって、劇的に変化してきたことが分かったのだ。恐竜の絶滅も、地球が何度も経験してきた天体衝突による大絶滅の一つに過ぎない。そして、今後も大きな天体衝突が、十分起こりうると考えられている。

◆著者紹介
松井孝典(まつい・たかふみ)
1946年、静岡県に生まれる。1970年、東京大学理学部地球物理学科卒業。現在、東京大学名誉教授、千葉工業大学惑星探査研究センター所長、理学博士。専門は比較惑星学、アストロバイオロジー。地球を1つのシステムとしてとらえ、環境、文明など広い視点から研究を進めている。著書には、『スリランカの赤い雨』(角川文芸出版)、『生命はどこから来たのか?』(文春新書)など多数。

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