2014.06.12

感動読み物この男がいたからダルビッシュ、田中はメジャー入りできた 伊良部秀輝 哀しき最速エースの肖像 後編 父との対面と、突然の別れ

週刊現代 プロフィール

「どうなんでしょう、働きたいと思っていますよね」

動揺した声だった。

「日本に帰りたい」

「ミッドライフクライシスになっちゃった。なんていうのかな、虚無感。心に穴が空いたみたいな。それが最近つらいですね。何もしないで、ぼうっとしているでしょ。何もしない自分に罪悪感を感じる。何もしないと世の中から取り残されていってしまうみたいな」

ミッドライフクライシスとは中年になり精神的、肉体的に衰えを感じた人間が精神の安定を崩してしまう症状だった。

「朝5時から6時ごろ起きて、パソコンに向かってメールを見たり。音楽聞いて、日本のテレビ番組をユーチューブで見たり……。引きこもりですかね。毎日、何もしていないですよ」

伊良部は自嘲気味に笑った。

「このままアメリカに住むつもりですか?」

「家族がこちらの生活がいいと言っているんで。ぼくとしては日本に帰りたいです。英語も話せないし。もし話せたとしても日本がいいですね。日本が好きですから、テレビ番組も面白いし、四季もあるし。

人と会わないといけないという気持ちはあるんです。心理学者によると人間の本能の中に集団を求めるものがあるらしいですね。二人以上の集団を求めるらしいです。それが叶わなかった時は、もやもやしてしまう」

引退後、ロサンゼルスに住んでいた伊良部は酒に浸ることが多くなっていた。妻が家で酒を飲むことを嫌がったため、リカーショップでビールをケースごと買い込み、カラオケボックスへ一人で入り、酒を飲むこともあった。

酔っぱらうと、日本にいる知人に国際電話をかけて、弱音を吐いた。

「奥さん、家を出ちゃったんですよ」

「酒飲むなって言われてたのに、飲んで家に帰ってな。飲んだでしょと言われたんで、うるさいんじゃと怒鳴ってしもうた。もう怖いから出て行くって」

泣いて電話することもあった。「日本に帰ってこい」と友達に諭されても、家族とのつながりが切れるのが怖いのか、

「死ぬほうがましや」

と何度も死と言う言葉を口にしたという—。

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