また、川上村には「若妻会」と呼ばれる農家の妻が集う交流会があり、都会から来て、環境に不慣れな奥さんを助ける役割を果たしている。東京から川上村の農家に嫁いだ遠藤絋子さん(34歳)はこう話す。
「嫁いで来た当初は、友達も話し相手もいなかったので寂しくて不安でした。でも『若妻会』で同年代の人と週に1回集まって、悩みや困っていることを話すうちに自然と仲良くなれて。いま2歳の息子がいるけど、地域の人が一緒になって成長を見守ってくれるのは、本当に心強いです」
川上村が子育てをしやすい村であることは出生率にも表れている。去年の出生率は、1・89と全国平均(1・43)を大きく上回り、3人、4人と子供を持つ家庭も珍しくない。
さらに川上村のレタス農家は、収穫時期に当たる6~8月は休みもないほど忙しいが、冬の農閑期は長期の休暇を取ることも可能だ。ある村民はこう言う。
「毎年、何人かの仲間と一緒に海外旅行ツアーに参加するのが楽しみですね。去年は1ヵ月ほどハワイに行ってきました。今年はタイに行く予定です」
もちろん遊んでいるばかりではなく、スキー場や都市部の工場に出稼ぎに行く人もいるし、空いた時間を子供の教育に当てる家庭も多いという。
「川上村は非常に教育熱心な家庭が多い。村内には高校がないから、中学を出たらたいていの子は下宿して高校に通う。東京や大阪の大学に行く子も多い。学費もかかるし仕送りもしなきゃならないけど、教育のために使うカネを惜しいとは思わないね」(40歳の男性村民)
藤原村長は「人づくり」を一番に掲げてきた村の方針が、実りつつあると語る。
「私は村づくりで一番大切なことは、後継者を育てること、つまり『人づくり』だと主張してきました。24時間開館の図書館や大規模な文化センターを設立したのもそのためです。いまはレタスが好調でも、いつ需要を失い、元の寒村に戻らないとも限りません。そんなとき正しい舵取りができる人間を育成することが、この村には必要なんです」
不便だけど、幸せ
川上村の目下の問題は収穫期の人手不足だ。十数年前までは都市部から若いアルバイトが1000人規模で押し寄せていたが、現在はほとんどなく、農繁期は、中国からの農業実習生に頼らざるをえないのが現状だという。
レタス農家を営む林長一(63歳)さんは、かつては中国人実習生と農家のトラブルもあったと語る。
「野菜を盗んだり、仲間の金品を盗んだりする素行の悪い奴もいた。農協が窓口となり、中国から実習生を連れてくるんだけど、こっちは選べないから、どんな人間か働いてみるまで分からないんだよね」