2014.08.17
# 本

医学会には薬の宣伝をする「御用学者」がいる---上昌広『医療詐欺』第1章より

御用学者と御用マスコミ

では、医療界における「御用学者」はなぜ生まれてしまうのでしょうか。

身もふたもないですが、その原因は「カネ」です。

たとえば、バルサルタン騒動で問題になった医師たちは、毎週のように講演会に呼ばれ、バルサルタンが効きますよと話しては一回およそ10万~15万円程度の講演料を貰っていました。

そうした医師からすれば"小遣い"程度だろうと思うかもしれませんが、その小遣い欲しさから、製薬会社に操られてしまう医師も多いのです。

バルサルタンを方々で宣伝した教授の中には、お子さんを私立の医大に通わせている方もおられました。学費などの負担は年間350万~670万円に上ります。大学教授といえどもサラリーマンです。大学からもらう給料だけでそんなおカネは払えません。そういう事情もあってバイトをしなくてはいけなかったのではないでしょうか。

製薬会社の方針から医師への接待費が公開されなくてはいけなくなったため、現在ではかなりおとなしくなりましたが、かつてはシンポジウムだ、学会だと超高級ホテルで、さらにその後の高級クラブなどで、医師を接待漬けにするのが、MRの仕事という時代もありました。

ちなみに、この構造は対「医療マスコミ」にもあてはまります。

多くの誠意ある医師は、医学論文などをチェックしていますので、臨床試験のデータを操作するだけでも絶大な波及効果がありますが、一部の高齢医師や管理業務で多忙な医師は、いちいち論文なんて読みません。

そこで製薬会社のMRが「営業資料」としてもっていくのが、「日経メディカル」など医療専門誌の企画記事です。東大教授などを招いた座談会などがおこなわれ、そこで「バルサルタンは効く」みたいなことを言わせれば、「それじゃこの薬をつかおう」となります。

東京電力が捻出していた莫大な広告費によって、マスコミの言論が封殺されていたという報道もありましたが、実は医療界にも「御用学者」を用いた「御用マスコミ」が存在し、製薬会社によるその広告費は、年間1兆円はくだらないとまで言われています。

医師の不祥事と国との距離

日本の医師たちの不祥事の背景に、「民」である製薬会社の存在があるということがよくわかっていただけたと思うのですが、実はこれもまだ氷山の一角にすぎません。

そもそもこの「民」と「学」の癒着や不正がなぜ生み出されるのかというところを考えてみれば、おのずとその「真犯人」が見えてきます。

その謎解きをしていくにあたって、国立がん研究センターの医師による横領事件を例にとってご説明していきましょう。

2013年2月26日、国立がん研究センター中央病院の小児腫瘍科長、牧本敦医師(当時四五歳)が国の研究費約2,570万円を不正にプールし、一部を家電製品の購入などに私的流用したとして懲戒解雇されました。

牧本医師は2007~08年度、厚生労働省から計約2億2,000万円の研究費を受け取っていましたが、物品納入業者に架空発注して代金を過大に払い、その分を不正にプールする「預け」という手法で裏金をつくり、少なくとも五百数十万円を私物のエアコンやテレビなどの代金に充てていたという話です。

国立がん研究センターの記者会見では、牧本医師本人がプールしていたという説明がされましたが、そんなことはあり得ません。出入り業者が一人の医師のためだけにリスクを負うなんてことは考えにくいからです。

そうなるとひとつの可能性が浮かびます。

牧本医師は、国立がん研究センターで代々おこなわれていた裏金づくりのスキームで、私的流用をした――。国立がん研究センター関係者によれば、事情は以下のような感じです。

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