忘れかけていた月への夢が、手が届く現実に思えてくる一冊!
アポロ計画終了から40年余がたち、人々のあいだにはいつしか「いまさら月になど行く必要はない」という認識さえ広まってきています。しかし、それは月での優位を独占しようとするアメリカの思惑に、まんまとはまっているにすぎません。
世界ではいま、アメリカ、中国、ロシアなどを中心として、月の探査・開発をめぐって激しい競争が始まっているのです。
世界はなぜ月をめざすのか? 2023年、「宇宙兄弟」のヒビトのように日本人は月面に立てるのか?
「かぐや2」計画の主導的立場にある著者が、いま始まった「宇宙大航海時代」における日本の針路を示します。
はじめに
ほとんどの日本人は、いま「世界の多くの国々が月をめざしている」ことを知らないのだ――私がそれを思い知ったのは、2013年末のことです。
2013年12月14日、月着陸探査機「嫦娥(日本語読みは「じょうが」)3号」が中国で初めて、世界で3番目の月着陸に成功し、さらに無人探査車を活動させました。私たち月科学者は、このことが日本のニュースでも大きく報道され、国民のみなさんの関心が月に向かうことを楽しみにしていました。
しかし、意外にもニュースではほとんど取り上げられず、大変がっかりしました。また、インターネット上では「中国が月着陸に成功したらしいね」「でもそんなの、アメリカのアポロ計画で50年近く前に行われていることじゃないか」「そうそう。いまさら月探査・月着陸なんて、大したニュースじゃないよ」といったみなさんの感想を多く目にしました。
本書を手にされているあなたも、「月探査」に対して、同じような思いを抱いているのでしょうか。だとしたら、あなたはアメリカの巧妙な広報作戦に、まんまと引っかかって、だまされているのかもしれません。
巧妙な広報作戦とは何か、なぜアメリカはそんなことをするのか、それは本書の中で説明しましょう。
日本人の多くの方がご存じなく、国内では大きなニュースにもなりませんが、いまや世界は「月探査ブーム」を迎えています。それは1990年代なかばから始まり、次第に加速しているのです。アメリカやロシア、中国は着々と月探査計画を進め、毎年のように新たな探査機が月に送り込まれ、画期的な科学データが続々と公開されています。ヨーロッパやインドなど、それに追随しようとする国も多数あります。
もちろん日本も、大型月探査機「かぐや」の成果で着実に月探査先進国の仲間入りをし、次なる月探査・開発戦略を模索しています。
では、各国はいまなぜ、月に向かっているのでしょうか。