二宮清純レポート 23歳 ソフトバンク内野手 今宮健太 若き「名手」は、日本一を狙う
今シーズン、抜けた、と思った当たりを何度この男に救われただろうか。171cmの身体に、抜群の野球センス。緊迫した試合が続くCSの舞台でも、恐れ知らずの若武者が躍動してくれるはずだ。
球史に残る美技
フェア、ファウルの区別なく、天井に当たった打球を野手が捕球すればアウトになる。それが福岡ヤフオクドームの特別ルールだ。
珍しいプレーが大一番で飛び出した。
10月2日、ヤフオクドーム。福岡ソフトバンクのレギュラーシーズン最終戦。2位・オリックスとはゲーム差なしで、首位のソフトバンクが勝てば優勝。オリックスが勝てば、残り2試合のうち1勝で逆転優勝となる。事実上の優勝決定戦だ。
1対1の同点で迎えた延長10回表だ。2死満塁でオリックスの4番ウィリー・モー・ペーニャがフルスイングした打球は三塁後方に舞い上がった。
サードの松田宣浩とショートの今宮健太が、〝下から目線〟で打球を追う。天井に当たった打球は軌道を変えてフィールド内のファウルゾーンへ。落下点に入ったのは今宮だった。ポケットキャッチで捕球し、最大のピンチを切り抜けた。
その裏、ソフトバンクは四球で出塁した柳田悠岐を2番・今宮が犠牲バントで送り、5番・松田のサヨナラ打につなげた。
3年ぶりのリーグ優勝が決まった直後、監督の秋山幸二は胴上げされる前にひとりひとりと抱き合い、喜びを分かち合った。指揮官の目には涙が浮かんでいた。
5年目の今宮にとって、3度目となる今回のリーグ優勝は格別だった。4年前の優勝はルーキーで一軍出場がなく、3年前の優勝も本人によれば、「ただ、その場にいたというだけ」。ショートは川崎宗則(現ブルージェイズ)の定位置だった。
だが、今季は違う。プロ入り後、初めて全試合にスタメン出場し、不動のショートストップとしてチームに貢献した。まるで牛若丸のようなプレーで、何度もチームを救った。
印象に残っているシーンがある。6月8日、甲子園での阪神戦。7回裏、4点ビハインドの場面で阪神・上本博紀がすくい上げた打球は、ショート後方へ。打球の角度からしてレフト前に落ちるかに見えた。
ところが今宮は真後ろに体をターンさせるや、ジャンプの最高到達点でグラブを突き出したのだ。
空中で白球がグラブに当たり、こぼれる。今宮は瞬時にそれを察知したのだろう。今度は左腕を逆シングルのかたちで反らしてグラブに収めた。