「バントだからといって力を抜き、腕だけでポンとやるのは愚の骨頂。バッティングのときに足に力を入れて踏ん張るように、同じ構えでバントもやらなければならない。打球を飛ばさない時こそ、むしろ体に力を入れる。そうしないとボールの勢いを体全体で吸収することができないんです」
コツン、コロコロの技術を目に焼きつけるため、今宮は何度もユーチューブで川相のバントシーンを確認した。今では〝バントの神様〟の後継者と言ってもおかしくない存在である。
このまま〝おくりびと〟の道を極めるべきなのか。別の考えもあるので紹介しておきたい。語るのは巨人などで切り込み隊長として活躍した仁志敏久だ。身長は今宮と同じ171cmだった。
「僕は2番の経験もあるのですが、4~5回打席が回ってくるとして、1試合に2回はバントをやる可能性がある。そんな中で、ある程度の打率を残すのは大変なんです。
結局のところ、自分を殺してチームに尽くすのか、自分の良さを引き出すのか。チーム事情もあるので、一概にどちらがいいとは言えませんが、彼には葛藤もあるでしょう」
広いヤフオクドームでフェンスの向こうに打球を運ぶのは容易ではない。今宮は「もうホームランは捨てました」と語っている。それは本心なのか、それとも世を忍んでいるのか。
5年前、入団発表の席で、彼はこう宣言している。
「3割30本塁打30盗塁を目指します」
まだ23歳。結論を出すのは早いのかもしれない。
敵将も期待する男
今宮をどう評価しているのか。どうしても聞いてみたい人物がいた。ソフトバンクと最後まで優勝を争ったオリックス監督の森脇浩司である。
森脇も鳥越同様、現役時代はいぶし銀のショートとして鳴らした。ダイエーのコーチ時代には川崎を育ててもいる。
敵将の目に、売り出し中のショートは、どう映っているのか。
「久々に本物のショートが誕生しようとしています」
—本物のショートとは?
「それについては言えません(笑)。ただ、今は日本シリーズの巨人戦で一発ファインプレーをすれば、3年ほどは名手ともてはやされる。それは有名になっただけで、本物とは言わないんです。