2014.11.29

第5回ゲスト:北方謙三さん (前編)
「ヘミングウェイのマッチョな美学は明らかにコンプレックスの裏返しでしょうね」

島地 勝彦 プロフィール

北方 小説は学生の頃から書いてました。それで、新潮に掲載されたこともあるんです。

島地 作家を目指すのは自然な流れだったわけだね。でも当時は純文学でしょう。

北方 いまのようにジャンルが細分化されていませんでしたから、作家を目指すといえば純文学しか考えられなかった時代です。20代は、せっせと原稿を書きながら、もっぱら肉体労働に明け暮れていましたね。

横浜で沖仲仕をやったり、家庭ゴミの収集をやったり。それで生活費を稼ぎながら、毎月120枚くらい書いて新潮社に持っていくんですけどまったく掲載されず、鬱屈した日々でした。

北方・中上・立松、ゴールデン街で正座させられる?

島地 その頃はたしか、中上(建次)さん、立松(和平)さんとよく飲んでたんだよね。新宿のゴールデン街で、3人が大ゲンカをしてたって聞いたことがあるなあ。

北方 3人とも純文学を目指していて、どうにもならなくて鬱々としてたから、ケンカはしょっちゅうでした。だいたい、中上と口論になって、「表に出ろ!」みたいな流れで、仲裁に入ろうとした立松も巻き添えになって、ゴールデン街の路上でとっくみ合いですよ。

島地 いやあ、若いね。いい時代だ。でもその3人だと、腕っぷしが一番強いのは北方さんでしょう。柔道で鍛えた剛腕でもあるし。

北方 立松はそこそこ強かったですね。中上はコワモテのくせに、ぜんぜんスポーツをやったことがないから、実は弱い。で、3人でごちゃごちゃやってたら、新宿のヤクザの兄さんたちがやってきて、「お前らここでなにやってんだ! 他人の迷惑を考えろ!」って怒られたんです。

島地 新宿の路上でヤクザに説教された若者が、後に文豪とはね。

北方 説教だけじゃなく、正座までさせられて、3つ並んだ頭をパンパンパンッと叩かれました。後で3人だけになって、「怒られちゃったな。飲み直すか」と。