2014.12.07
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全角度調査 「年収900万円=最大幸福」説は本当か?

「収入」と「幸福度」の相関関係 第2部
週刊現代 プロフィール

もちろん、日本と米国では物価や文化も違うし、為替レートの問題もあるので、日本人にとってどのくらいの年収がいちばん幸福感を得られるのかは一概には言えない。日本の平均世帯年収は約550万円なので、米国と同じく平均より少し上がいちばん幸せだとすると600万円くらいかもしれない。

また、世帯年収1000万~1200万円が最も幸福感が高いという内閣府の調査もある。同調査によると、収入がその額を超えると幸福度はなだらかに低下していく。

一気に使うか、分けて使うか

当然のことながら、年金暮らしになれば、現役時代並みの収入は得られない。しかし、あくせく働く必要がなく、自由時間が増えるので、人生の損益分岐点はかなり下げることができる。

年収200万円の暮らしも経験したが、テレビの仕事や講演などを数多くこなし年収1億円稼いだ年もあったという宗教人類学者の植島啓司氏はこう語る。

「ある経済誌の調査では、米国の大富豪とタンザニアの遊牧民の幸福度はたいして違いませんでした。幸福度というのは、いまの状況そのものよりも、先の見通しがどうであるかということに関わってきます。いまカネがあっても失うかもしれないと思っていれば不幸ですし、これからだんだん良くなると感じている人は幸せですよね」

結局のところ、収入の多寡が幸福に与える影響は極めて限定的なようだ。

一方で、カネの使い方には確実に幸せになれる方法がある。カナダにあるブリティッシュコロンビア大学の心理学者エリザベス・ダン准教授は、カネの使い方と幸福度の関係について研究を続けてきた。その結果、「いくつかの原則が、幸せな方法でおカネを使うのに役立つことがわかった」と語る。

「1つ目は体験を買うということです。旅行やコンサート、特別な食事といった体験は服やソファを買うよりも多くの幸福をもたらしてくれます。

2つ目は贅沢の頻度を下げること。好きなことをいつもしていたい、美味しいものをいつも食べたいという気持ちはわかりますが、出費のメリハリをつけたほうが楽しみは増します。

3つ目は、先に払って後で消費することです。クレジットカードやローンとは逆に、先に払って後で受け取るほうが満足感は増します。旅行代金などは早めに振り込んでおいたほうが、旅への期待も含めて楽しむことができる。

そして他人に投資すること。そうすることで社会的なつながりが生まれ、幸福度が増します」

前出の木暮氏は、カネの使い方と満足度について次のように分析する。

「少し専門的になりますが、経済学の用語で『限界効用逓減の法則』というのがあります。わかりやすい例でいうと、1杯目のビールはうまいが、2杯目のビールでは同じ満足感は得られない。3杯目の満足感はもっと下がるというものです。

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