さらに、観光地化している現在の箱根で噴火が起きれば、大変な悲劇になると同氏は指摘する。
「たくさんの人が集まっているけれども、観光客が知っているような箱根に入る主要ルートは2~3本しかない。いずれも狭い山道です。ロープウェイも市街地も外輪山のなか、つまり火山のなかにある。あれだけの別荘リゾートが火山のなかにあるというのは、世界でも稀有な例です」
しかも箱根山の噴火では、富士山との連動も考えなければならないと同氏は語る。
「富士山と箱根は約25㎞しか離れていない。地球規模で見たら、すぐ隣です。数十万年前に、太平洋側から島が移動してきて本州にぶつかり、伊豆半島になった。その影響で富士山と箱根は、ほぼ同時期に形成されたのです。連動してもなんら不思議はありません」
長野・阿蘇とも関係
立命館大学歴史都市防災研究所の高橋学教授は、箱根の火山活動の活発化は、長野での地震、阿蘇山の噴火とも関連して理解できると説明する。
「日本列島の地殻の動きというのは、左腕を使うとよく分かるのです。左手で握り拳を作って、力こぶを作るようにひじを曲げてみてください。握り拳が北海道、手首からひじが東日本、二の腕が西日本から九州あたりというイメージです。
東日本は、力こぶを作るときのひじから先のように、太平洋側から西日本の方向、つまり二の腕のほうに押しつけられている。ひじの先端にあたるのが関東で、富士山や箱根山も含まれます。
一方でひじから二の腕にかけての部分に、日本最大の断層、糸魚川—静岡構造線があります。その一部が動いたのが、11月22日の長野県北部での地震でした。東日本と西日本の境目、日本の折れ目にあたり、非常に力がかかっています」
東日本大震災をきっかけに、このパワーバランスに変化が起きたという。
「あの大地震で力が解放されて、力こぶを作るように押し込まれていた東日本が、少し緩んだ。少し緩むとゆとりができるので、再度グッと力こぶを作ることができますよね。それと同じで、以前は年間10㎝程度だった太平洋側の地殻の沈み込みの速度が、現在20~30㎝に加速しています。
こうして急速に沈み込んだ地殻は、地中深くで圧力を受けて融け出し、マグマになる。小笠原沖の西之島で噴火が起こり、島がどんどん拡大しているとニュースになっていますが、あれもマグマが次々と供給されて起こっている現象です。
ひじの部分にあたる富士山、箱根山周辺にはさらに複雑に力がかかり、大きな影響を受けているのです」