「国民的お荷物」農業は再生できるか? 安倍首相の全中改革で、できること、骨抜きなことを検証する

高い関税をはじめとした貿易障壁を設ける一方、減反に参加した農家に補助金を払う「戸別所得補償制度」(2012年に自公政権が「経営所得安定対策」に名称変更)に必要な財政負担まで押し付け、消費者のお荷物になってきた農業を本当に再生できるのか。
安倍政権は、全国約700の地域農業協同組合から資金を吸い上げて政治力をほしいままにしてきた「JA全中(全国農業協同組合中央会)」の弱体化に狙いを絞り、その改革方針を呑ませることに成功した。
だが、具体策を盛り込む農協法の改正はこれからだ。JA農中や野党は巻き返しを狙っているうえ、西川公也農相に政治献金問題が浮上しており、事態は予断を許さない。株式会社の農業参入など、不可欠とされながら今回のメニューから早々に外された課題もある。
首相がこれまでに実際に実現できたことと、これからやるべきとされる課題、そして先行きを展望しておこう。
無残な日本農業の衰退ぶり
今月12日の施政方針演説で、安倍首相自身が指摘したように、日本の農業の衰退ぶりは無残だ。戦後70年の間に、就業人口が8分の1の200万人に減ったばかりか、従事者の平均年齢は66歳を超えて民間企業ならば定年退職者が多数という高齢化にも直面している。
また、日本の農業が、高い輸入障壁を設けて、国内の農産物を保護してきた問題も見逃せない。コメを例にとると、1995年に始めた関税ゼロ枠での海外からの「ミニマムアクセス(最低輸入量)」を年間77万トンに限定し、これを上回る部分には778%の高関税をかけて輸入を制限、消費者に高い国内米の消費を促してきた。スーパーなどで欠品が目立つのに、一向に十分な輸入が行われないバターの問題など、農業と農政に不満を持つ消費者は多いはずだ。
そこで、安倍首相は施政方針演説の冒頭で邦人ジャーナリストの殺害事件を引き起こしたテロ組織ISLL(いわゆるイスラム国)を非難したのに続き、経済全般の「戦後以来の大改革」に踏み出すと述べ、その具体策の最初の項目として言及したのが農業改革だったのである。
首相は、農業が目指すべき方向は「世界のマーケット」だと述べている。農林水産省のまとめで、昨2014年の農林水産物・食品の輸出が6117億円と初めて6000億円の大台を超えたことを指摘したうえで、世界の食の市場が340兆円と桁外れに大きいことを強調して見せた。