「官製春闘で賃上げ」は、安倍首相のお手柄なのか?

「官製春闘」のヤマ場到来
いよいよ明日(3月18日)、春闘の最大のヤマ場である「集中回答日」を迎える。
春闘は、毎年、2月から3月にかけて行われる、我が国独特の労使交渉だ。ただし、今年も昨年に続き、安倍首相が先頭に立って経営側に賃上げを迫る“官製春闘”という特異な形になった。政権の経済政策の一枚看板であるアベノミクスの成功を演出するため、国民総生産(GDP)の6割を占める個人消費を伸ばすべく、家計の所得を増やそうと、政府は賃上げの実現に躍起なのである。
結果としては、一定の効果が出るとみていいのだろう。新聞報道によると、民間のシンクタンク10社が、今年の賃上げ率が2・35%(ベースアップ=ベアと定期昇給の合計)と昨年実績(2・19%)を上回るとみているという。
だが、安心するのは早計だ。こうした賃上げは、雇用の2割を支えている大企業に限定した話に過ぎないからだ。一方で、人手不足という構造問題も横たわっている。各地で開花が近づく桜のように、春本番の到来と手放しで喜ぶには、まだまだ多くのリスクが残っている。
若い人には信じられないかもしれないが、今年で60回(年)目を迎える春闘の歴史を振り返ると、前年比の賃上げ率が32.9%という驚異的な数字を記録した年もある。
厚生労働省の「春季賃上げ状況」によると、それは1974年のことだ。前年10月に勃発した第4次中東戦争に端を発する第1次石油危機が、「狂乱物価」と呼ばれた激しいインフレーションを引き起こし、日本中が翻弄された時代のことである。余談だが、この年の暮れには、政治資金の出所を巡る疑惑が原因で、田中角栄内閣が総辞職する騒ぎもあった。
その後、高度経済成長の終えん、バブル経済の崩壊などが響いて、賃上げ率は低下の一途を辿った。1992年から5%を切ることが珍しくなくなり、2002年から1%台で低迷するようになったのだった。
背景にあるのは、後述する潜在成長率の低下だが、給与所得者の間では、会社との協調路線が行き過ぎて経営と馴れ合う労働組合や、非正規労働者の増加で組織率の低下に苦しむ労働組合が珍しくなくなり、労働組合や春闘の存在意義が問われるような時代になっていたのである。