大阪都構想=大阪市廃止分割だ――「佐々木信夫教授による藤井聡教授批判」への批判的コメント
佐々木信夫先生の論説(「大阪都構想『住民投票』で問われるのは、大阪の大都市の将来についてだ―藤井聡氏の「7つの事実」に反論する」(2015年)http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/42669)を読むと、興味深い論理展開があり、かつ「大阪都」推進の政治家と比べて、大阪市の廃止を明言し、一般論として横浜、名古屋などの指定都市制度の意味を認めるなど、正確な書き方も含まれていると思いました。

ただ、私も大阪をすぐ近くで見ながら「大阪都」を数年間研究していますが、関西・東京などの行政学、地方自治、財政学の研究者のうち発言している人は、大多数が、大阪市を廃止する極端な「大阪都」構想に批判的な見解です。(批判的な発言をすると、橋下氏やその支持者から激しく攻撃されるので、批判を控える研究者やマスコミ記者もいる。)
佐々木教授の論説にはかなりの疑問点もありますので、下ではそれを4つの論点に整理し、バランスを取るための情報提供とコメントをさせていただきます。
住民投票では投票率が上がり、できるだけ多くの市民が意思表示することがたいせつです。
【 】は佐々木教授の論説(前編・中編・後編から成る)からの引用です。
なお、私自身の、「大阪都」(反対派は「大阪市廃止分割構想」と呼んでいる)についての研究にご関心があれば、インターネットで検索してください。
1.大阪市廃止、広域行政の府への一元化の目的
佐々木教授【大阪都構想は3つの要素、つまり①対外的に強い大阪をつくるため府と市の広域行政を大阪都庁に一本化する、②約270万という巨大な大阪市を廃止し、住民自治を強化する観点から公選区長・議会を有する5つの特別区を創設し、基礎的な行政サービスを充実する、同時に東京都などができなかった③地下鉄、水道、ごみ処理など現業部門は別法人化するなど、公共サービスの効率性、経済性を重視した「民営化」を促進する、ものである。】(前編)
佐々木教授【都市構造上、狭い大阪市だけへの依存ではもはや限界があり、もっと広い視野で都市政策を展開しないと、中心部にとっても郊外地域にとっても発展性はない、そう考えよう。それは大阪都構想の考え方にも合う。広域政策を府(都)域全体で展開する、大阪の都市構造上、大阪市域を超えて大都市戦略を描かなければ発展性に乏しく、これを機に大阪市域から広域行政の範囲を府域全体に拡張することが伸びる大阪につながる、新たな都市経営の視点はそこに置かれている。】(中編)
■コメント:
これは大阪都推進派の標準的な主張だが、抽象的だ。分かったようでわからない、ということになる。具体的に議論すべきは、「大阪市を廃止し府に一元化しなければ進められない広域政策とは何か」である。関空、学研都市、市内のおもな再開発を済ませた今、「どんな巨大事業をするのか」という疑問だ。
その点で、維新の党のウェブサイト(2015年1月現在)は分かりやすい。大阪都によって可能になる成長戦略として、4項目(だけ)が挙げられている。①「うめきた」(梅田北地区)の第2期開発、②都市型環状高速道路、③鉄道・モノレールの整備、④統合型観光リゾートの誘致、と書いてある。
ところが、①は第1期のグランフロントが府市と民間の協力で完成しにぎわっているし、②と③も調整にやや時間がかかるが府市の分担協力で整備してきた。なお、都構想では③について、数千億円かかる「なにわ筋」線を掘って新たな関空直結鉄道を走らせる豪勢な提案をするが、まず府と市でJRに働きかけて、「うめきた」のJR地下新駅の建設とJR関空快速の高速化(追い越し施設の設置など)を進めるべきだろう。
つまり、①~③の政策も、大阪都=大阪市廃止の根拠としては弱いわけだ。唯一、④つまりカジノだけは、府が建設するとき、住民の意見を反映しやすい大阪市が消滅していると強行しやすい。日本初のカジノ建設が大阪都構想で促進されるのは確かだが、それが大阪と住民にとって良いのかは、別問題だ。
ちなみに、戦後これまで大阪の街を整備してきた大阪市(市役所)の功績を、忘れてはならないだろう。1990年代に(他の自治体と同じく)公共投資をやりすぎたのは事実だが、その点は橋下市長が諸施設を廃止し効率化している。
他方で市は、住民サービスとともに、梅田の南そして北側、中之島、天王寺、大阪城公園など世界的水準に近いまちづくりを進め、USJや海遊館を誘致した。郊外の整備や関空の建設に忙しかった大阪府だけでは、そこまで手が回らなかっただろう。この大阪市という強力なエンジンを都構想で廃止するのは、まことに「もったいない」という気がする。エサ代(失礼!)は少しかかるが、金の卵を産むニワトリを殺して、食べてしまうようなものではないか。