2015.04.13

大阪都構想=大阪市廃止分割だ――「佐々木信夫教授による藤井聡教授批判」への批判的コメント

村上 弘 プロフィール

3.大阪市の廃止で旧大阪市・市民はソンをするか

■コメント:

おカネの問題は分かりやすく重要だが、本当は、大阪市が持つ便利な施設や、重要な権限(とその行使を決める住民の自治)がどうなるか、にも注目していただきたい。
市の大型施設は「二重行政」と批判されるくらいだから、市が廃止され府の第2施設になれば、会議場、図書館、病院、大学、体育館などは、「2つあるのはムダだ」として廃止統合・縮小されるだろう。(そうしないのなら、わざわざ大阪市を廃止する必要はない。)それは節約にはなるが、大阪の力と住民サービスを明らかに衰退させる。

また大阪市の強い権限、たとえば都市計画権や、国と交渉する権限も府に移る(特別区は府知事に頼んで国に意見を伝えてもらう)が、それでどうなるかシミュレーションしてみよう。後者は大都市として屈辱的で、大変つらいことだ。前者は、市民は、今なら都市計画権を持つ大阪市に対して、都市開発やカジノ建設について、意見を述べ反映させられやすいが、それができなくなるだろう。「ニア・イズ・ベター」のまったく逆が起こるのだ。

佐々木教授【約700億円の公債負担金を含め約2200億円が府(都)に移るが、藤井教授が指摘するような、これまで市内に使っていたのが、市外に流出する仕組みになるものではない。・・・

都区協議会において、使い道の検証、それを踏まえた財政調整財源の配分割合が協議されることになる。・・・

こうしたことを、透明性をもって行えるよう、何にでも、どこにでも使える一般会計と異なり、使途が限定され、財布として独立し、都区協議会で監視する「移管に係わる資金」として「特別会計」が設置され、すべて移管の趣旨にそって旧大阪市区域の広域行政費用として使われる。】(中編)

■コメント:

しかしながら、必読文献である「特別区設置協定書の要旨」(平成27年2月12日、ウェブサイトで読めます)には、次のように書かれている。

「法人市町村民税、固定資産税及び特別土地保有税を財政調整財源とし、これらの収入額に大阪府の条例で定める割合を乗じて得た額を特別区財政調整交付金として特別区に交付するものとする。」

「都市計画税・事業所税の取扱い:大阪府と特別区の双方の事業に充当することとし、交付金により特別区に配分するものとする。」

「大阪府及び特別区の事務の処理について、大阪府と特別区及び特別区相互の間の連絡調整を図るため、大阪府・特別区協議会(仮称)を設置する。」

要するに、旧大阪市から手に入れた税源のどれだけを府が特別区に配分するかは、府がその意思つまり条例で決めるのであり、都区協議会(大阪は「府区協議会」)では意見を交換するにとどまる。(もちろん、佐々木教授が「都区協議会で決定する」と書かないのは、その点への配慮だろう。)また特別会計を作っても、その金額等は府が条例を改正すれば操作できるのではないか。そうしなければ、都構想の狙いである大阪府への一元化(集権化)は実現できない。

佐々木教授【もう1つの、特別区選出の府(都)議会議員割合が3割になるので、実際の投資は旧大阪市域外に重点が移ろうという話だが、そうはないと思料する。

藤井氏は、議員とはご当地の利益だけを主張する、昔風のドブ板議員の集団であるとでも捉えているのだろうか。主張の文脈からはそうとれるが、残念ながら、農村地域の村政治ならともかく、大都市での政治行動は今や違う。・・・

今でも府議の議席選出基盤は、大阪市域が3割にすぎず、7割の議員は大阪市域外の選出議員である。これが、府議会が都議会に変わったからと言って、また特別区制度に変わったからと言って、旧大阪市域を軽ずるような行動をとるかと言えば、そうは考えられない。】

■コメント:

議員は選挙区ごとに選ばれる制度なので、当選・再選するには、超有名でなければ、かなりの程度に地域(選挙区)の利益を代表しなければならないのが現実で、それにはデメリットともにメリットもある。

佐々木教授からの引用の後半で、府議会が今と変わらないというのはその通りだ。けれども、「大阪都」の最大のマイナスである、大阪市域の約300万人の民意全体を反映し表現する仕組み(大阪市長・市会・市役所)が廃止されるという事実は、十分に説明されているだろうか。また、特別区は住民に近いが、面積の狭さや権限、財源面で、今の指定都市として強くまとまりのある大阪市と比べると大幅「格下げ」になることも、併せて説明しなければならない。

大阪市の市民は自分たちの責任と、(市民の、それ以上に企業の)財源とで、立派な街を作り住民に、さらに府下にもサービスしてきた。たしかに、1990年代の財政好調期にはムダも多かったが、21世紀には財政難と政策評価制度によって抑止できるはずだ。

地方自治とは、「自己決定、自己責任」の原理でもある。大阪市民が、都構想で市が廃止されても、府が世話してくれると考えるなら、それは甘い。「自己決定、自己責任」は、人口(=府議会での議員数)の少ない堺市では、よりシャープに感じられる。自分たちが市を持つ権利と責任を捨てて府に重要政策をお任せする「都構想」では、堺は見捨てられると不安を持ち、それを拒否したのは賢明だっただろう。

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