大阪都構想は、マジで洒落にならん話(2) ~「対案がないぞ!」というデマ編~
文/京都大学大学院教授 藤井聡
「批判する者には対案が無い」というデマ
もう一つのパターンの反論は、「藤井は都構想の批判ばかりしている。対案が無いぞ!」という、いわば「逆ギレ」のパターンだ(たとえば、https://www.youtube.com/watch?v=SBJTSqglBD8)。
しかし、実はこれもまたかなり滑稽な反論だ。そもそも対案なんて、いくらでもあるからだ!
第一に、「都構想」は「都構想」でも、「別の区割りの都構想」だ。これだけでもう、何十通りとあり得るではないか。なぜ、今のこの「5分割」の都構想にこだわるのか?筆者にはさっぱりわからない。
第二に、「都構想」という「行政改革」をやらなくても、全然別の行政改革の方法が、いくらでもあるではないか。別に大阪市をつぶさなくても、大阪市とほかの市を合併して、大阪をより大きくしていくという方法だって考えられる(グレーター大阪、という奴だ)。あるいは、行政の仕組みは今のままで、行政区の権限をより強くしたり、大阪市を残したまま区を再編したり、いくらでも方法はある。
第三に、「行政改革」なんて何もやらなくても、今の行政の仕組みのまま、「大阪を元気づけるプロジェクト」をさまざまに展開していく、という方法があるではないか。
リニアの同時開業、北陸新幹線の早期大阪接続、USJの拡張等、大阪を元気づけるプロジェクトはいくらでもあるのだ(筆者はそういう構想を「大大阪構想」と呼び、拙著第三章でその全容を論じている。筆者は、行政改革など無理して行わず、全力で、この大大阪構想を、周辺地域と中央政府との連携の下、徹底的に進めるべきだと考えている。http://satoshi-fujii.com/book/)
つまりなぜ、対案などいくらでもあるのに、ここまで「論外」な大阪市を廃止して5分割するだけの都構想に、そこまでこだわるのか?
例えばあなたが人に薬を勧められて、それを飲もうとしていたら、医師団が表れて口をそろえて「その薬、実は毒だ!病気になるぞ!下手したら死ぬぞ!」と叫ばれたとしよう。この時、あなたは「お前達は批判ばかりしている! 批判するなら、別の薬を出せ!出せないなら飲むぞ!」とキレるだろうか?
私なら、「えっ、そうですか」と言って、一旦、その薬を口に入れることをやめる。
そしてそのうえで、医師団に尋ねるだろう「どうすればいいですか?」と。
今の大阪は疲弊してるとはいってもまだまだ活力があるのだ。「今すぐ何かしなけりゃ死んでしまう」という状況では断じてない。
だから、最善の対案は、「ここは一旦、薬(といわれている毒かもしれないもの)を飲むことをやめ、落ち着いて、次の対処を考える」という振る舞いだ。
だから、いわゆる「反対派」と呼ばれる人々は、そういう立派な対案を示しているのだ。つまり、「一旦、落ち着いて、頭を冷やす」という振る舞いこそが、最善の「対案」なのだ。
だから「反対派には対案がない!」という言葉そのものが、実は単なるデマなのだ。
例えば、大阪府立大学教授(歴史学)の住友陽文氏は、こうした実情を憂い、次のように指摘している。
「大阪府や大阪市をめぐる問題点についての現状認識が共有されないまま『二重行政の解消』という虚構が先行し、その議論に乗らない者は「対案を示せない」と切って捨てられる議論が横行していて、民主的に議論を進める上できわめて不公正な状況にある」
あるいは、大阪経済大学の柏原誠准教授(政治学・地方自治)は、次のように冷静に指摘している。
「これらの状況から5月17日の投票については,その賛否の結果のもつ効果は等しいものではなく,賛成の結論が出た場合にはるかに重大な効果を持ちうることに鑑みて,対案やその後の議論を考える時間を生み出し,より高い水準の市民的合意を得るためには、本投票で特別区設置が否決されることが合理的であると考えざるを得ない。」
つまり、批判する人々は皆、「考える」事、それ自身を対案として提示しているのだ。
そして極めつけは、京都大学元准教授の中野剛志氏(政治思想)の次のような指摘だ。
「だって……世の中が悪くなるから辞めてくれって言ってるだけなのに、なんで悪い事を辞めるのに対案がいるのか。じゃぁノリピーかなんかがですよ、麻薬中毒になって覚醒剤辞めなさいってゆってですよ、じゃぁノリピーが、覚醒剤よりもっと気持ちいい事教えろ、対案を出せ!対案を!!って言ったら、じゃぁ、対案ないから吸ってて良いよ言うんですか。」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm26252662)
――では、なぜ、ここまで大阪の人々が「考える」という事を停止し始めてしまったのか――実は、「大阪都構想」を巡る議論における最大の問題が、その点にある。
この点については、(筆者と共に)実に多くの学者が辛辣な批判を差し向けている。ただし、その問題を語るためにはもう紙面が尽きた。それについては、明日、改めて解説することとしたい。
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