—第二章では、組織内でセクハラ被害にあった女性警察官が登場します。警察が持つ問題点も浮き彫りにしていますね。
現在の警察組織は、必ずしも理想的なものとは言えないでしょう。働きづらさを痛感している女性警察官も少なくない。
そういう現実も含めて、私は警察の「組織」に焦点を当てた作品を書いています。ときどき、「濱の小説はエリート警察官ばかりが主人公じゃないか」と言われるのですが、それは警察組織を見渡せるようになるには、最低でも警部以上で、警視庁本部の課のトップを経験していないと無理だから。
ある程度の立場になってはじめて、予算の確保や他部署との折衝、他府県警察との交渉を経験する。そうしないと、警察組織は見えてこないし、組織は動かせない。だからある程度エリートの目を通してストーリーを構築しているんです。
現場の刑事の活躍を細かく書くのもいいですが、そういう作品は多くの方が書いている。私は、そうじゃない部分の警察を書いていきたいですね。
現職警察官も愛読
—第三章では、新興宗教の暗躍や政治家が関わる犯罪が描かれていますが、これまた非常にリアリティがありますね。
宗教や政治が絡んだ犯罪は、実在の宗教法人や実際の事件を下敷きにしています。市民が知らないところで起きている事件を盛り込むことで、平和ボケしているいまの世の中に警鐘を鳴らしたいという狙いもあるのです。
警察の組織内部にとどまらず、そこに宗教や政治も絡む問題は、監察だけでは処理できません。そこで登場するのが公安です。そういう意味で、監察と公安は連携を取っている部分がある。
一方、対立することもあります。作品の中でも公安部の捜査員が監察に怒鳴り込むシーンがありますが、これは公安時代の私の実体験です。監察の行動が私たちの捜査とバッティングし、われわれから見れば完全な捜査妨害になった。そこで部長に「これから文句を言ってきます」と連絡を入れてから、怒鳴り込んだんですよ。
—これだけリアルだと、現職警察官の読者も多いのではないですか。
警視庁本部庁舎の2階にある書店さんが「濱コーナー」を作ってくださっていますから、そうかもしれませんね。かつての同僚から感想が寄せられることもあります。
第3作『電子の標的』では、現・官房副長官の杉田和博さんが「警視庁が抱えている問題点を突いている。続編を期待」と書評を寄せてくれました。官僚トップが「もっと書け」とお墨付きをくれたわけですから、これからも「ヒトイチ」シリーズをはじめ、警察組織への叱咤激励になる作品を書いていくつもりです。
(取材・文/阿部崇)
「週刊現代」2015年6月27日号より
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