原因不明と居直る病院
この事件は2012年2月、読売新聞の朝刊連載「医療ルネサンス」で取り上げた。石郷岡病院の院長は取材に対し、こう語った。
「当初、ご家族に自傷行為と説明したことは確かですが、ビデオには映っていなかった。原因は不明。職員が何かをする様子は確認しましたが、頭部を足で少し押さえる行動のように私には見えた。おむつ替えの後にも立ち上がる場面が映っている。首が折れていれば、そのような動作はできないと思う」
「時間が経ってから負傷した部分が悪化し、重い症状が出ることもあるのでは」との私の質問には「専門ではないので分からない」とした。
負傷前、ユウキさんの首は斜頸のため前傾して動かず、あおむけに寝ても頭部がかなり上がった状態だった。そこを足で強く踏まれたらどうなるのか。
斜頸などのジストニアの治療経験が豊富な川崎市立多摩病院神経内科部長の堀内正浩さんは「斜頸が続いても、首の骨が骨粗鬆症のようにスカスカになって弱くなることはない。しかし首の関節が固まってしまうため、衝撃を受けた時にその力が逃げず、一ヵ所に集中してしまう。通常より小さい力でも首の骨が折れることは考えられます」と話す。
それでは、首の負傷がしばらくしてから重傷化することはあるのだろうか。脊髄の病気や傷害の治療に取り組む東京の総合病院の脳神経外科医は、3つの可能性を示した。
(1)暴行により頸椎に脱臼などの不安定性が生じた。その後の軽い衝撃で頸椎がさらにずれるなどして、脊髄に深刻なダメージが生じた。
(2)暴行の段階で脊髄に何らかの出血が生じて、これが次第に増えて脊髄を圧迫し、麻痺が起きた。
(3)多量の服薬、もしくは飲食が十分できないことなどによる脱水のため、脊髄に虚血が生じて麻痺が引き起こされた。
外傷後に症状が進む場合は(1)が多く、(2)がまれに存在するという。麻痺が外傷よりも遅れて生じることはあるという。