近年、メディアをもつ企業が増えてきています。しかし、「メディア化する企業」として紹介するなら、ただコンテンツをつくるだけでなく、おもしろい人が集まっている企業がふさわしいのではないかと考えました。
そこで頭に浮かんだのが、第一回に取り上げることになった「QREATOR AGENT(クリエーターエージェント)」です。吉本興業でマネージャーや新規事業をしていた佐藤詳悟さんが2015年2月に創業したばかりの同社には、100名以上の「QREATOR(ぶっとんだ創造者*)」と、その才能を最大限に引き出すプロデューサーたちがいます。
QREATOR AGENTは、「QREATORとともにもっと世界を楽しくする」というミッションを掲げ、「この時代のQREATORにあったプロデューサーを育てる」「QREATORに刺激を与え、最もその力を発揮できるシステムを創る」「次世代のQREATORを育成・発掘する」ことを目指しています。
企業・組織として、どのような考えで才能を発掘しプロデュースするのか、そしてどのようにメディアを捉えているのか。おもしろいことがあれば、きっと、そこにはおもしろい人がいます。人を考え抜いているQREATOR AGENTには新しいメディアを考えるためのヒントがあると考えました。
今回、QREATOR AGENT代表取締役の佐藤さんにインタビューを実施。「人」の重要性やプロデューサーという職業についてはもちろん、Web上の露出がマスメディアの露出につながる、といった情報を知ることができました(文・佐藤慶一/写真・齊藤優作)。
1. 創造している人、2. 情熱ある人、3. 楽しんでいる人、4. 極めている人、5. 独特な人、6. 正しい欲をもっている人、7. ぼくたちが好きな人

プロデューサーがいないといいものはつくれない
――今回、QREATOR AGENTを「メディア化する企業」の例として取り上げたいと思っています。まず、企業理念が「人」ということですが、この言葉を掲げることになった背景を教えてください。
佐藤:ぼくは2005年、吉本興業に入社し、マネージャーを経験しました。ただ、もともとマネージャーがやりたかったわけではなく、芸人さんが好きだったわけでもありませんでした。なによりも、エンタメ全般に興味があったんです。本もつくりたい、イベントも企画したい、テレビ番組もつくりたい、Webプロモーションもしたいと思っていました。
マネージャーを経て、最終的に行き着いたのは新規事業でした。マネージャーとして仕事をするなかで、窮屈に感じることがあったんです。たとえば、打ち合わせなどで人と会ったとき、自分が担当している芸人さんにとってプラスかマイナスかで見てしまうこともありました。このままでは自分の視野が狭くなると思い、新規事業の部署に飛ばしてもらいました。
デジタル事業センターのプロデューサーとして働くなかで、自分発のさまざまなコンテンツやプロジェクトを仕掛けましたが、結局のところ、ぼくひとりではなにもつくれなかったんです。つまり、周りにいる芸人さんやクリエイター、ベンチャー企業の社長などを頼りながら、なにかをつくっていました。だから、たぶん、ぼくはものづくりに向いていないと思ったんです。
一方で、場をつくる、お金を集める、大きな方向性だけ考える――そういうことには向いていました。そして、コンテンツやプロジェクトをつくるとき、その最小単位は「人」だと強く実感したんです。結局、いいものがあるときは、そこにいい人がいる。強いチームがあるときには、強い人がいる。人間である以上、なにをするにしても本質的なのは「人」だと思い、企業理念に掲げています。
――現在、QREATOR AGENTでは100名以上のQREATORを担当しています。メディアにとって「才能の発掘」というのは重要な役割のひとつですが、ぶっとんだ人をどのように発掘しているんですか?
佐藤:こちらで見つける場合と紹介・推薦いただく場合がありますが、QREATOR AGENT側では3つのリストを作成しています。ひとつは、テレビや雑誌、Webメディアなどに出ているおもしろい人をまとめ、1000人ほどリストアップしています。2つ目は、これから来そうな業界や分野のリスト。たとえば、人工知能。今夏であれば憲法学者。数年前なら働き方といったように、各時代のブームになるジャンルをまとめ、そこに当てはまる人に会いに行っています。
3つ目は契約者リスト。さきほどの2つのリストを照らし合わせて、次はどういう人と契約するのか考え、決定したQREATORをリストで管理しています。人選は、やはりプロデューサーがその人とおもしろいことをやりたいかどうか、本気でプレゼンできるかどうかを大切にしています。
だからこそ、いまが旬だからといって、必ずしも契約するわけではありません。会社を立ち上げたばかりだと、どうしても最初からビジネスになるような人選をしてしまいがちですが、なんとか我慢して――もちろんメジャーな人も手伝いますが――現在時点での旬やすごさを人選の基準にせず、ちゃんと「原石」とも契約していきたいと考えています。
――現在と未来を踏まえたリストを作成しているんですね。たとえば、いまのプロデューサーがピンとこなくても、新しいプロデューサーが入ることで、さまざまな分野の才能が発掘されていくことも大いにありえますよね。
佐藤:そうですね。だからこそ、QREATORだけではなく、プロデューサーにも出資するスキームがあってもいいと思います。プロデューサーに求められるのは、熱量と責任感、「自分がやらないとダメだ」という思い込みです。
自分の会社を立ち上げることで、QREATORと同じ目線に立ち、同じ環境で事業をおこなうことができます。プロデューサーが起業するなら、QREATOR AGENTのデータや営業ルートなどリソースも共有しながら、QREATORと同じ船に乗るほうがプロデュース業務においては正しいと思っています。

板挟みの状況でも、志を持つことが大事
――創業メッセージで「QREATORたちの才能を最大化するプロデューサーが今の日本には少ない」と書かれていますが、具体的にはどういう部分が足りていないのでしょうか?
佐藤:世の中にはいろんなプロデューサー論がありますが、ぼくはプロデューサーがいないといいものがつくれないと思っています。プロデューサーがいないと、クリエイティビティをもつ人がいるだけです。ぼくは、ゼロイチを考えて、実現するまでもっていく人がプロデューサーが欠かせないと考えています。
たとえば、車の製造を考えてみましょう。タイヤをつくる会社もあれば、ボディを加工する会社もあれば、窓ガラスをつくる会社もある。この場合、「車をつくろう」と言い出した人がプロデューサーです。ビジョンをぶち上げ、そこに専門的・創造的な人を巻き込むことで、職人やクリエイターさんのスキルも活きます。現在、大きな方向性を示し、それを実現できるプロデューサーを育てようとしている会社は意外と少ないと思います。
QREATOR AGENTでは芸能や音楽、出版など多業種から10人ほどのプロデューサーが集まり、事業をつくっています。しかし実際のところ、それぞれの業界の慣習があり、捨てきれていない部分があります。それでも、非専属というかたちのエージェントでビジネスをするにあたり、プロデューサーは本質的に物事を考え、板挟みになる状況でも、志を持つことが大事だと思います。
――板挟みになるというのは編集者でもよくあることですが、間に立つ人の宿命ですよね。
佐藤:中間にいる人ほどストレスフルな環境に置かれるので、すぐに嫌になることも多くあります。そんなとき、なんとしてでもこれをつくりたい、という熱量がないと、心がポキポキ折れていくと思います。だから、ぼくは職業や年齢など関係なく、本気で才能を最大限に開花させたい人たちをどれだけ生み出し、世の中に広めていくことができるのかが重要だと考えています。
プロデューサーというのは、本気でおもしろいものをつくりたいと思える人がいるかどうか、そういう人に出会えたかどうか、という熱量がカギです。だから、世代は関係ありません。今後は、10代のインターンを採用して、新しい時代のプロデューサーとして育てるようなこともしていきたいです。

これからは開拓者やモノづくりのプロが大事になる
――QREATOR AGENT立ち上げにあたって、どのように創業に向けてプロデューサーを集めていったのですか?
佐藤:最初は、勘とノリで誘っていきました。ぼくが声をかけた時点ではまだ企業で働いていた人もいれば、ちょうど辞めていた人もいました。会って2時間でQREATOR AGENTへの参加を決めてくれた人もいます。プロデューサー陣に共通しているのは、「人が好き」「おもしろいことをやりたい」ということです。
現在、担当するQREATORさんは100人を超えていますが、プロデューサーは10名です。QREATOR AGENTの立ち位置を説明すると、専属のマネジメント会社とその真逆にあるプロフィールだけ集めて仕事が来たらやってもらうマッチング系のサービスがあるという構図のなかで、その中間がごそっと空いているんです。専属の場合、精神的にも一緒で二人三脚は重いという人もいます。だから、そもそも「専属」というあり方を問い直してもいいんじゃないかと思いました。
ゆるく誰か紹介してほしいとか、やりたいことだけ営業に伝えてもらって、やりたい案件だけ担当するとか。QREATOR AGENTは専属でも完全フリーでもない非専属という中間の位置づけで、深くもなく浅くもないマネジメントが才能をもつ人たちにとって必要になると考えました。
既存のあり方を疑い、ひとつのあり方に固執しないことが大事だと思っていて、むしろ「担当」という考え方にも少し違和感があるくらいです。これまでのマネジメントの枠組みでは、マネージャーによってサービスの質や内容が変わることもありました。専属事務所であれば40~50人ほどのマネージャーがいて、能力もバラバラなので差が生まれます。そういう状態を極力減らしていきたいので、中間のポジションをとることにしたんです。
もちろん、専属事務所というかたちも絶対に存在したほうがよくて、だからいまでもそのあり方がメジャーなんだと思います。でも、ぼくらがそこにあえて行く必要はないので、せっかくやるなら攻撃的な部分をお手伝いすることに特化してみることにしました。これから先の時代、新しい分野に挑む開拓者やモノづくりのプロたちこそますます大事になって来ると思います。それと同時にその才能を最大化する役割を担うプロデューサーという職業も求められてくるのではないでしょうか。
この会社のプロデューサーがQREATOR全員のことを理解していれば、どこにだれが行ってもプレゼンできる状況になります。現状、連絡などの都合から担当を設けていますが、ひとりで全部背負うというよりは、みんなでQREATORたちを営業できるようになればいいなと思います。だから、Webメディア「Qreators.jp」を立ち上げたのも、同一な情報をいろんな人に伝えるのに、Webという手段がいちばん有効だと思ったからです。

Web上の露出はマスメディアの露出につながる
――業務としては、営業代理業とプロデュース業がメインですが、具体的にはどのようなサービスを提供しているんですか?
佐藤:いま、QREATORの方々に無償で提供しているのは、プロフィールページの作成です。たとえば、かっこいい字を書く書道家のサイトがイマイチだったり、先鋭的なものづくりをしているのに自分の見せ方が分かっていない人に出くわすことって、あるあるだと思います。
よくプロフィールページ行くと、趣味や特技が書いてありますが、実はキャスティングするときにほとんど役に立たない情報なんです。だから、起用する側に立ったときに、使いたい、使いやすいと思ってもらえる情報――声や動き、過去の作品、誰と仲がいいのか――をプロフィールページに掲載するようにしています。
――プロフィールページの作成以外ではどんなことを提供しているのでしょうか?
佐藤:プロフィールページの作成以外では、ほかのクリエイターの紹介もしています。たとえば、映画監督の方が次回作品で脳に関する映画を撮影するとなったときに、脳科学者と話して脚本をつくりたいけれど知り合いがいない。一方、脳科学者の方は学会などでアカデミックな交流はあるかもしれませんが、クリエイターの方とつながっていることは多くありません。QREATOR AGENTは100名以上のQREATORがいて、そのほとんどが違う肩書きを持っています。そこで、ほかのQREATORの紹介もお手伝いしているというわけです。
――WebメディアではQREATORのプロフィールのほかに、対談などのオリジナルコンテンツも読むことができます。企業としてメディアを立ち上げた目的はなんだったのでしょうか?
佐藤:Webメディアの運営を通じて、QREATORさんに対してさまざまなデータを共有したいと思っています。たとえば、最近、テレビや雑誌でコメンテーターとして活躍しているコラムニストの方をデータで調べたところ、その方が昨年あるタイミングにプライベートなニュースがあり、Web上でものすごく話題になりました。有名人の方々とも絡みがあったのでアクセス数もかなり伸びています。すると、2ヵ月後くらいには、テレビ露出が伸びているんです。
このことからわかるのは、まず読者や視聴者のみなさんが気になった人についての情報をツイッターやブログなどで探して、話題になった人はラジオ、雑誌、新聞、テレビの順番でどんどん露出されていくようです。最終的にテレビ番組に出ると、CM出演や講演依頼が増えたり、本が売れるようになることもあります。
そこでぼくらが考えているのは、巷では知られているけど、まだマスメディアには出ていないような人たちが世の中にバズっていく方法を分析し、コンテンツをつくり、必要であれば芸能人や著名人、インフルエンサーたちと絡めて、まずはWeb上で露出を図っていくこと。それがマスメディアの露出につながります。だから、Webメディアでは対談や鼎談といったコンテンツを月15本くらい仕掛け、コラムなどと合わせて毎月60本くらい出せるようにしていきたいです。

どんなニーズにも応えられるよう、多様なQREATORを集める
――「いかにして人は売れるのか」というのをデータ分析で解き明かしているのはとてもおもしろいですね。データはどれだけ重要視しているんですか?
佐藤:これまでこの業界ではデータを活用できていませんでしたが、データがすべてではないとも考えています。とはいえ、勘というか直感でおもしろい思ったもので勝負するときに、まずデータを参考にしたり、ひとつの選択肢として捉える。そうして、勘とデータを組み合わせて使い分けることが今後大事になってくると思い ます。
QREATORさんたちが自分で数字を調べたり、データを地道に収集・分析することは 大変だと思うので、ぼくらがブレイクした人たちのデータを解析して、普遍的な要素に落とし込んでいくことで、「人はどのようにして売れるのか?」という問いに対してロジカルな仮説をいくつか持っておきたいと思います。ぼくらが調べたデータについてはQREATORに無償で提供しますが、外部の芸能事務所やマネジメント会社に商品として販売できるのではないかとも考えているところです。
――魅力的なQREATORの方々には問い合わせも多々あるかと思いますが、窓口業務なども手伝われているんですね?
佐藤:そうです。たとえば、書籍の執筆の際に印税がよくわからない、出版社をどう決めればいいのかわからないとなったときに、間に入って仲介料をいただきます。ときにはQREATORへの問い合わせをお断りするという仕事もやっています。企業や組織ではなく個人で事業や活動されている方だと仕事が断りづらいこともあるので、間に入ることで外部とスムーズにやりとりできるようお手伝いしています。
営業の問い合わせがあるだけでなく、こちらから営業先への一括営業もおこなっています。いま、テレビやラジオ、雑誌などさまざまなメディアに関する営業リストをつくっているところで、そこに100名以上のプロフィールを一括で提供しようと考えています。これまでの枠組みではテレビ番組に3名ほどを営業していたと思うんですが、仮に起用されなかったら流れてしまうのでもったいない。でも、100名以上のプロフィールが手元にあれば、直近の仕事ではなく ても別のタイミングでの起用を考えてもらえるかもしれません。
どんなニーズにも応えられることが営業の鉄則です。商品があればあるほど、ニーズに応えられる可能性が高まります。だから、QREATOR AGENTでは質の高い才能たちとどれだけコミュニケーションをとり、しっかりと管理した営業先に定期的にメッセージを送り、情報を提供させていただくことが大事だと思っています。
また、今後はイベントにも力を入れていきます。最近では、森ビルのアカデミーヒルズさんと共催で六本木アートカレッジ・セミナーをおこないました。将来的には劇場や映画館をもつという選択肢も考えています。だからこそ、QREATOR AGENTと契約すると、さまざまなメディアや場所で活躍ができる――未来のQREATORの方々には、そんな風にメリットを感じてぼくらを選んでもらえるのではないでしょうか。
QREATOR AGENT代表取締役。1983年生まれ。東京都出身。明治大学卒業後、2005年に吉本興業入社。ナインティナインなどのマネージャーを経て、2007年からロンドンブーツ1号2号の担当マネージャーに。『笑っていいとも!』のレギュラー獲得や、田村淳のキャスター化や田村亮のパパキャラ化などをプロデュースする。2015年、吉本興業を退社しQREATOR AGENT(クリエーターエージェント)を設立。 http://qreatoragent.jp/