メディアの本質は「共通言語」になれるかどうか---1億人に情報を届けるには“結果としてのメディア”がキーワード?

2015.7.28 THU

Webメディアの編集者とプロデューサーは似ている――100名以上の"ぶっとんだ創造者"と10名ほどのプロデューサーがいる「QREATOR AGENT(クリエーターエージェント)」代表・佐藤詳悟さんのお話を聞いたとき、そう思いました。おもしろい人を見つけて、いっしょにコンテンツをつくり、世の中に流通させていく。

そういう意味で、QREATOR AGENTはメディア的だということができそうです。さらに、佐藤さんは取材時に、「メディアとは結果的になるもの」という言葉を残しました。この言葉は、これからのメディアを考えるキーフレーズになるのではないかと勝手に感じています。

「人」の営業・PR代理店として才能を集め、Webメディア「Qreators.jp」をもち、たびたび話題となるコンテンツを配信しているQREATOR AGENTはまったく新しいメディアなのでしょうか?(取材・佐藤慶一、徳瑠里香、藤村能光[サイボウズ式]/写真・齊藤優作)。

QREATOR AGENT代表取締役の佐藤詳悟さん

おもしろいことが話題になった結果、メディアになる

――今回の特集「ぼくらのメディアはどこにある?」では、いわゆるメディアとして想起するものではなく、企業も場所も個人もメディアなのではないかと探っていく企画です。佐藤さんが考えるメディアとはなんでしょうか? 

佐藤:メディアとは「共通言語」だと思います。ぼくらの時代の主要なメディアはやっぱりテレビでした。子供のころを思い返しても、学校で話すことは、前日のテレビ番組の内容でしたし、それがメディアの本質ではないかと考えています。

ただ、昔と違うのは、いまの時代は、人がメディアになっているということです。マスメディアよりもソーシャルメディア上のインフルエンサーのメッセージのほうが伝わることだってあります。一方で、マスメディアが視聴率のような指標をもってその反響を確かめていましたが、個人のメディア化については、裏付けるデータを集め、十分に分析されていません。

だから、QREATOR AGENTではデータを活用し、人がメディアであることを実証していきます。そういう風に考えると、これからのメディアである人をプロデュースする人もより求められてくると思います。この会社自体がメディアであり、いろんな人たちの出会いの場になってほしいですし、多くの人にとっての共通言語や話題を提供できる会社になれたら嬉しいです。

メディアでもメディアじゃなくても、サービス提供者として重要なのは、お客さんやユーザーさんが「おもしろいね」「いいね」と思ってもらえるものをどれだけ発信できるかです。その積み重ねの結果、メディアと呼ばれるんだと思います。最初から自分たちをメディアとして発信するというのではなく、おもしろいことを仕掛け続けて話題になった結果メディアになった、という捉え方のほうが自然な気がします。

――メディアを目指すのではなく、結果としてメディアになる。

佐藤:ぼくはそのほうがしっくりきています。だから、ターゲットを決めるのではなく、どんどん年代・性別・人種などがバラバラになっているそれぞれの受け手に届いていくようなものづくりができたらと思います。

たとえば、メディアをつくって、日本人1億人に届けるのはもうむずかしいじゃないですか。でも、Webもリアルも活用して、ジャンル横断的に事業や活動をおこなった結果、トータル1億人に届けることはできると思うんです。いろんな人におもしろがってほしいからこそ、QREATOR AGENTでは肩書きがバラバラなQREATORさんたちをお手伝いしています。

ぼくらもWebメディアを持つようになりましたが、これは出会いの場になると思っています。たとえば、BABYMETALの仕事などで知られる田中紫紋さんとファッションブランドなどのアートディレクションなどを手がけている千原徹也さん、そして最近では絵本作家としても活躍されているキングコングの西野亮廣さんの3人がアートについて考えるという鼎談をおこないました。

――これまでなかった組み合わせで対談をおこなっているんですね。サイト上でQREATOR同士がつながりあうのもメディアっぽいですね。

佐藤:そうですね。やっぱり、これが対談や鼎談だから意味があります。仮に飲み屋での話だったとしたら、「一緒にやりましょう」と意気投合しても流れてしまうことが大半です。だから、メディアに出るという仕事として来ていただくことで、意気投合することでコラボレーションが生まれると、それもまたコンテンツになるという、よい循環になればと思います。

小さいころ、テレビの風景として覚えているのは、あるアーティストが芸人さんに楽曲をつくることがその場のノリで決まったこと。その風景にワクワクしていましたが、いまの社会にはそういうノリがあまりありません。ぼくはなにもつくれないので、昔の記憶や覚えている風景を、なんとか現代に反映させたいのかもしれません。だから、Qreators.jpでは、昔のテレビ番組のノリや雰囲気を実現したいと考えています。

ただ、メディアをつくったところで、情報が広がらなければ意味がありません。そこで、外部のメディアやプラットフォームとの提携をすすめています。コンテンツが自社メディア上で見られなくても、外で見てもらって、QREATORの方々を知ってもらう接点を増やすほうがいいと考えているからです。

Webメディアを立ち上げたことで、QREATOR同士の新しい組み合わせやWeb上に話題を生み出すことができる基盤ができました。6月からテレビの営業を開始したので、夏から秋にかけてQREATORさんのラジオやテレビ露出も増えると思います。メディアに出演が着実に増えていけば、マネタイズをどうするのか腰を据えて考えていかなければいけない段階にようやく入ることができます。今年中にはお手伝いするQREATOR数を200人くらいの規模にする予定なので楽しみです。

QREATORやプロデューサーの起業に投資していく

――ビジネスモデルについても伺います。エージェントというと手数料ビジネスのイメージですが、非専属でも成り立つのですか?

佐藤:いまはメディア出演料の3~4割、QREATOR AGENTが企画・制作したものについては都度決めているかたちです。今後、ぼくらの会社が認知度を上げ、各QREATORに定期的に仕事が入るようになれば、ビジネスになりえると考えています。そのために、Webメディア活用して、Web上に話題を提供して、QREATORの人柄や考えを知ってもらう接点を増やしたいです。

つまり、エージェントだけではなく、クリエイティブエージェンシーとして、ざっくり課題をいただけたら企画プランを策定・提案できる体制をとっています。イベント企画や動画などいろんな挑戦もしていくので、夏以降が勝負になると考えています。

――手数料以外のビジネスモデルはなにか考えているものはありますか?

佐藤:最近ヒントになると思ったのは、QREATOR AGENTで担当している腸内環境研究者の福田真嗣さんです。彼は最近、株式会社メタジェンという会社を設立しました。そこでは、一般の人でも利用できる腸内環境解析サービスを提供していて、簡単に説明すると、うんちを送ると腸内細菌リストを教えてくれて、腸内環境を知ることができるサービスです。

今後、QREATORやプロデューサーが会社を立ち上げることも増えると思いますが、そのときに出資するという選択肢も考えています。会社が大きくなれば出資した分だけこちらにもお金が入るため、マネジメント企業、プロデュース企業の新しいビジネスモデルになると思います。

現状、QREATORとは、浅くもなく深くもないちょうどいい関係ですが、彼らが本気でアクセルを踏みたいときには、人もお金も大きくコミットしていきたいです。その際、映画の製作委員会方式のように、QREATOR AGENT以外の企業や個人(投資家)なども参加いただき、運営していくのがいいかなとぼんやり考えています。

起業してから強く思っていることがひとつあります。それは、もっとカジュアルにものをつくる世界があってもいいんじゃないかということです。そんな世界観に乗ってくれるQREATORとプロデューサーといっしょにおもしろいことをしていきたいですね。

前提やルールを意識せず、メジャーな事例をつくる

――今後プロデューサーを増やしていかれると思いますが、次代のプロデューサーをどのように育てていくのでしょうか?

佐藤:それは大きな課題です。ただ、プロデューサーという存在はそれほど特別な職業ではなく、おもしろいと思うアンテナを持ち、おもしろいことを実現してしまえば、その人はもうプロデューサーだと思います。特殊能力は必要なくて、行動力と明るさと素直さ――おもしろいものをつくりたいと本気で想う気持ちや思い込み――があれば十分です。

具体的な教育というよりは、とりあえず経験してみることです。また、ぼくがいいプロデューサーになってほしいと思えるかどうかも重要ですが、そうなると、結局は熱量と人を見ます。自分が見たい未来に向けて動く熱量があれば、ロジックはそこまでいらなくて。ただ、データも占いよりは信じたいと思っています(笑)。

――編集もそうかもしれませんが、自分が本気でやりたいと思っていないと、やりきる、売り切ることまでできないのかもしれません。

佐藤:切羽詰まったり、リスキーな状況のほうが成功確率が高まるのかもしれません。たとえば、QREATOR AGENTグループに100社のプロデュース会社が紐づき、共通のリソースで、事業を展開する。なかには、韓国とかタイなどアジア圏の子会社もあるといったかたちになるのかもしれません。慣習や前提を疑いながら、さらにスピード感をもって、実験しながらもビジネスを実現していきたいです。

ベンチャーなので、「企業イメージがあるから」とか「これはやっちゃダメ」というような自主規制を気にしないようにしたいです。もっと攻撃的に前提やルールを意識しないようにしながらも、メジャーな事例をつくり、若い才能とプロデューサーとともに、もっと上のステージに行きたいと思います。

いま、QREATOR AGENTでも20代中ばのプロデューサーが2名います。でも、10代がいてもいい。QREATORとしては、ファッションデザイナーのハヤカワ五味さんや女子高生社長の椎木里佳さんなど若くしてとてつもない才能をもつ人たちがいます。彼女たちに匹敵するようなプロデューサーを輩出していきたいですね。

――最後に、メディア化する企業としてのQREATOR AGENTはこれからどこに向かっていくのでしょうか?

佐藤:Qreators.jpでは、話題になるおもしろいWebコンテンツをつくり、じわじわとうちのQREATORを世の中に広めていきたいです。エージェント事業についても、まだ手数料でビジネスをする段階ではないので、まずはさまざまなクライアントさんの課題解決をしたいですね。

実は著名なコンテンツ企業――ディズニーやジブリ――を調べてみると、最初はB to Bで仕事をやっていて、どこかのタイミングでB to Cに振り切る、というかたちをとっているようです。だから、ぼくたちもB to Cに向かえるように、いまは地道にB to Bの課題解決をやっていきたいです。最終的には自分たちで映像や作品をつくり、それらのコンテンツを流す映画館などの場所も持ち、クリエイティブを一挙に担えるメーカーになりたいと思っています。

佐藤詳悟(さとう・しょうご)
QREATOR AGENT代表取締役。1983年生まれ。東京都出身。明治大学卒業後、2005年に吉本興業入社。ナインティナインなどのマネージャーを経て、2007年からロンドンブーツ1号2号の担当マネージャーに。『笑っていいとも!』のレギュラー獲得や、田村淳のキャスター化や田村亮のパパキャラ化などをプロデュースする。2015年、吉本興業を退社しQREATOR AGENT(クリエーターエージェント)を設立。 http://qreatoragent.jp/
編集後記
次の才能に対するアンテナを張り続け、発掘・育成をするQREATOR AGENTは、雑誌のような会社でした。100名以上の肩書きがバラバラな人たちが集まってることはカオスな状態ではあります。それでも、才能を最大限に発揮するためのプロデューサーがいて、これまでにない組み合わせを実現するWebメディアも活用することで、編集の妙があり、話題づくりにつながっています。その結果、QREATOR AGENTは有力なメディアになりつつあると言えるでしょう。いま、だれでもメディア時代と表現されるようなこともあります。しかし、単にメディアとして情報発信するだけでなく、結果としてメディアになってしまった。そんなことが少しづつ増えてくることで、これまでになかった新しいメディアが生まれてくるのだと感じました(佐藤慶一)。

おわり。