2015.08.18
# 生理学 # 人類

なぜ心臓は「過労死」しないのか? 〜動き続ける臓器のミステリー

休めない臓器はなぜ「それ」を宿したのか

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心臓のパラダイムを覆し、治療戦略を変える新発見!

アクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)、心臓はこの両者にコントロールされているが、その分布を比べるとアクセルが圧倒的に多い。それなのになぜ、心臓は過労死しないのか? このミステリーに挑んだ著者らを待っていたのは、心臓に宿された身震いするような事実だった――。

世界初の「心臓が死なない理由」の発見はさらに、「心臓を強くする方法」の発見へとつながっていく。日本人の死因ではがんに次いで多い心筋梗塞などの虚血性心疾患への、画期的な新戦略が見えてきた!


「あたりまえ」を疑う難しさ

およそ研究に携わる者が忘れてはならない言葉の一つに「あたりまえの再定義」というものがある。

これまであたりまえと考えられてきた事柄をもう一度、先入観を捨てて見直す作業のことだが、実際にそうした姿勢でものごとを見るのはいかに難しいかを、いま自分自身を振り返って感じている。

Photo by Matthew Henry from Burst

真偽が定かでないことに対しては、研究者なら誰しもさまざまな可能性を考える。だが、いったんあたりまえだと思い込んでしまうと、「そう信じられてきたから」「そう言われてきたから」と思考停止して、その真偽を疑うことができなくなってしまうのである。

たとえば、ある「あたりまえ」について、過去のデータや論文などにあたって真偽を見直そうとしてみたとしよう。誰もが常識と考えて、深く掘り下げてこなかったのだから、データや論文の数は当然、きわめて少ないはずだ。そのような、手がかりがほとんどない状況に出くわしたとき、私たちがとる態度は次のどちらかになるだろう。

一つは、これほど疑問視されてこなかったのだから、明らかに正しいとみなしてよく、いまさらあえて研究対象とする意味はない、とする態度。もう一つは、これほど疑問視されてこなかったのだから、見過ごされてきた問題が何かあるはずだ、とする態度である。

いうまでもなく後者の態度が「あたりまえの再定義」につながるのだが、筆者を含め多くの研究者は、往々にして前者のような態度をとってしまいがちなのである。

「常識破り」のシステム

本書は筆者がたまたま、自分の専門領域である「心臓」において、見過ごされてきたある謎に対する好奇心から始まった研究によって、これまで「あたりまえ」と信じられてきたことを再定義するに至った経緯を記したものである。

心臓ではこれまで、どのようなことが常識とされていたのか、そして、それがどのように覆されたのか、その経緯を一般の読者にもできるだけわかりやすく説明するよう心がけた。

私たちの体においてきわめて重要な機能を持つ心臓は、決して心臓のみで自己完結しているわけではない。体内のさまざまな方面から、多大にして精密に影響を受けている。まずは、そのことを理解していただいたうえで、心臓についてのまさに常識破りともいえる新しい知見――現在では、「NNCCS」(a non-neuronal cardiac cholinergic system)、または「NNA」(a nonneuronal acetylcholine)と呼ばれているシステムについて紹介したい。

日本語でいうと「非神経性心筋コリン作働系」というよくわからない訳になってしまうので、本書ではあえて英語で表記することにする。

このシステムはわれわれが世界に先駆けて報告したものであるが、その後、ほかの複数の研究機関でも独立して同様の報告がなされていることから、その存在はほぼ確実なものになったと考えている。

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