内田 消費が伸びない、多くの中小企業が不振に喘いでいるという長年の課題も、解決する兆しはないですよね。周りを見渡しても消費者が求めていないものばかり作っている気がします。
水野 いまの世界が陥っている過剰生産は、マルクスの言う資本主義の「宿命」です。
世の中が貧しいときは、供給する側が需要を作れる。つまり、モノがあれば買う人がいるからそれでも経済が維持できるのですが、資源が行き渡り、成熟した社会では無理。それでも企業は仕事をしないといけないから、いらないものでも作るしかない。
内田 以前、ある電機メーカーの人から、「半年に1回新製品を出して、その度にコストを削減するのがノルマだ」と聞きました。それが当たり前の社会は間違っていませんか。
水野 これからは、企業が利益至上主義からゆっくりと脱却していくのではと私は考えています。企業の付加価値は、人件費と資本維持の減価償却費、あとは利益。仮に利益を出さなくていいと決めれば、人件費は今の1・5倍にできるし、雇用も増やせるのです。
利益が増えないと株価が上がらないから株主は怒るでしょう。「俺たちはリスクをとっているんだ」と言うかもしれません。しかし、預金者だって金利はほとんどゼロ。しかも、預金は金融機関を通じて国債を買わされているから、株主以上にリスクも取っている。
内田 会社は利益を追求するものだと考えていますが、そもそもは、人が生きるために会社がある。そう考えるべきですね。
国債は放っておけ
水野 企業が利益を出さないと税収も減り、1000兆円にもなる国の借金が返せないという意見があります。
しかし、国債は国にとっては借金ですが、国民からすると資産です。国民の預金で銀行は国債を買っているわけですから。国民が資産として持ち続けるなら、国債は永久にそのままでいいわけです。
内田 なるほど。
水野 資本主義が限界を迎えるいま、これからは世界的に「撤退戦略」が問われます。日本も経済規模が縮小するなかで、どう生きていくかを考えないといけません。経済史の視点で言えば、その参考になるのは戦後のイギリスでしょう。
内田 7つの海を制したイギリスが、戦後わずか10年の間に一つの島国にまで落とし込んでいった。それで社会保障負担の増加や国民の勤労意欲の低下という「英国病」が起きたわけですが、むしろそれくらいでよく耐えたと言える。
水野 イギリスは'90年代以降、再び経済成長することができたわけですが、これからの世界の国々が迎えるのはそのまま縮み続ける将来です。
内田 その縮み続ける経済を考える上で、日本の一つの未来の形は、やはり地方回帰だと思います。
その動きはすでに若い人を中心に広まっていて、2012年には9000人が自治体の移住支援を利用している。制度を利用せずに移住した人まで含めれば2万人以上という説もある。彼らは「地方で一旗揚げよう」というのではなく、「農業で食べていければそれでいい」と考えているんです。東京では食えないリスクがあるけど、農業をやっている限り、飯は食えますからね。
水野 カネ儲けばかり考えるのではなく、「縮んで豊かになる」思想が必要とされています。
みずの・かずお/'53年生まれ。経済学者。日本大学国際関係学部教授。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官、内閣官房内閣審議官を歴任
「週刊現代」2015年8月15日・22日合併号より
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