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安倍談話は格好の批判材料
安倍首相は、戦後70年の『安倍談話』を、終戦記念日から1日前倒しして、8月14日に閣議決定。このことは韓国の朴槿恵政権にとって、格好の批判材料となった。
ソウル在住ジャーナリストの金哲氏が解説する。
「韓国では昔から、3月1日の『3・1節』(植民地時代の1919年に独立蜂起した記念日)と、36年間に及んだ植民地支配が終わった8月15日の『光復節』は、大統領が国民向けに『反日演説』をする日と決まっています。
今年は特に、解放後70周年で、かつ『安倍談話』が出された翌日なので、朴槿恵大統領も力が入ったことでしょう。すなわち、『反日』を利用して、現在急降下している支持率の回復を図ろうとしたわけです」
朴槿恵大統領にとっては、「安倍談話」がどんな内容であろうとも、文句をつけられさえすればよかったということなのではないか。
実際、「安倍談話」に対する韓国側の批判は、まだ発表もしていない8月上旬から、すでに始まっていた。例えば、韓国3大紙の一角である『中央日報』(8月8日付)は、「謝罪のない痛切なる反省は虚飾だ」と題する社説を掲載している。
〈自己の過ちによって他者に被害を与えたことを反省する気持ちが真心だったならば、謝罪して然るべきだ。安倍首相が談話の中で、過去の侵略と植民地支配、痛切なる反省を言及しておきながら、謝罪という最重要の言葉を省略するのならば、反省の真実性を疑問視せざるを得ない〉
金氏が続ける。
「朴槿恵政権と対立している『中央日報』でさえこの論調なので、朴槿恵大統領が強い反日路線を打ち出せば、大統領に反対する声はなくなるわけです。換言すれば、朴槿恵大統領にとって、今回の『安倍談話』は、国民の求心力を図る千載一遇のチャンスだったとも言えるのです」
確かに「困った時の反日」と言えるほど、韓国の歴代政権は「反日」を、自らの政権浮揚に利用してきた。一例を挙げれば、金泳三大統領は、旧朝鮮総督府の建物を爆破し、盧武鉉大統領は「ノサモ」と呼ばれる親衛グループを使って反日キャンペーンを繰り広げた。
直近の李明博大統領は、政権末期の'12年8月に、竹島に上陸して国民を鼓舞した。加えて、「天皇は韓国へ来て、烈士の前で跪け」と演説したりもした。
こうした歴代政権の「反日」の成果は、当然ながら朴槿恵大統領も、意識していることだろう。
最近も、朴槿恵大統領は8月3日、訪韓した岡田克也民主党代表との会談で、慰安婦問題に関して再度、安倍批判を展開した。
「安倍政権は、韓日間の最重要課題である慰安婦問題を、早急に解決すべきだ。今年に入って被害者の女性が、7名も他界した。もう48名しか、この世に残っていない。
彼女たちの平均年齢は90歳近くになり、とにかく高齢であることを考慮して、急いでほしい。もういまが、彼女たちにしてやれる最後の機会だ」
続いて8月10日にも、首席秘書官会議で、カメラを前に発言した。
「日本政府は歴代内閣の歴史認識を確実に継承することにより、成熟した姿勢を見せるべきだ」
思えば朴槿恵大統領は、'13年2月に大統領に就任して以来、一貫して、「慰安婦問題が両国の最重要課題」と言い続けてきた。だが日本側は、「1965年に国交正常化した際に締結した日韓基本条約で解決済み」との立場を崩していない。
そのため朴槿恵大統領は、大統領に就任してからこの2年半、安倍首相との単独の日韓首脳会談を、一度も行っていない。もちろん、大統領として訪日もしていないし、安倍首相の訪韓も拒否し続けている。
朴槿恵大統領は、すでに5年の任期の折り返し地点を迎えている。このまま行けば、日本の首相と一度も首脳会談を行わなかった初めての韓国大統領となるかもしれない。
「朴槿恵大統領の現在の支持率は35%前後で、安倍首相の支持率とほぼ拮抗しています。
しかし安倍首相は、日韓関係を改善したら支持率が上がるかもしれませんが、朴槿恵大統領は、このまま『ぜんぶ日本が悪い』という主張をしていたほうが、むしろ支持率は上がる。そのため、日韓首脳会談を一度も行わなかった大統領として、歴史に名を遺す可能性は十分あります」(前出・金氏)