
人生の最期を、心穏やかに過ごす場所。「終の棲家」であるはずの老人ホームはそんな場所だと思っていた。だがいま突然、「倒産しました。退去願います」と無情の通知を受ける人が続出している。
過去最多の倒産ペース
「そりゃあ、驚きました。親父を施設に預けてたったの1週間で、ケアマネジャー(要介護・要支援の認定を受けた人に対して、ケアプランの提案などを行う専門職)から電話があって、『お父さまが入居された老人ホームが、急に施設を閉鎖すると言ってきまして』という。
愕然として、どういうことかと訊ねたら、ケアマネも泣きそうな声で『倒産だそうです』と言うんです」
埼玉県在住の大崎和弘さん(54歳・仮名)は、こう話す。
厚生労働省が発表した最新の「介護保険事業状況報告」によれば、要介護・要支援と認定された65歳以上の人は、594万9087人と、600万人近くに達している(今年5月末時点)。65歳以上の人口は約3300万人だから、この世代の約5人に1人が、介護や日常生活での手助けが必要な状態だと言える。
一方、核家族化が進み、65歳以上で独り暮らしという人も少なくない。家族だけでは介護の手が足りず、さまざまな高齢者向け施設、いわゆる「老人ホーム」を、終の棲家として選択する人も多い。
ところがいま、そうした高齢者施設を運営する事業者が、過去に例のないペースで続々と破綻しているのだ。
全国の介護事業者の状況を調査している東京商工リサーチ情報本部の関雅史課長は、こう話す。
「今年上半期の老人福祉・介護事業者の倒産件数は、前年同期比46・4%増の41件と急増。これは介護保険法が施行された'00年以降、最多の倒産ペースです。
今年の特徴としては、負債総額5000万円未満の倒産が前年同期比87%増と急増している。小規模な介護事業者が経営に行き詰まり、次々と倒産に至っているのです」