父親はいきなり追い出されることになったのか。大崎さんは言う。
「知らせを受けたケアマネがまず施設に飛んで行って説明を求めたのですが、施設長からは退去は移る先が決まってからでいいと言われたという。
けれどもケアマネによると、その日は施設内に、普段の半分しか職員がいなかったらしい。彼らもいきなり『閉鎖』と言われて憤慨し、帰ってしまったそうです。しかし、一番の被害者は入居者でしょう。そんな施設に親父を長居させられない」
ケアマネが奔走し、数日後に転居先を確保できたものの、サービス内容や自己負担額は大きく変わる可能性があると告げられた。大崎さんは話す。
「移った先はサービス付き高齢者住宅(サ高住)というもの。有料老人ホームと違って、普通のマンションの部屋にヘルパーが来てくれるような仕組みです。
ケアマネからは、『前の施設では、看護も介護も内勤職員がしてくれたけれども、今度は訪問介護を受ける形になる。要介護度に応じて決まるサービス利用枠を超えた分は満額自己負担になってしまうかもしれない』と説明されました」
介護問題に詳しいNPO法人「二十四の瞳」の山崎宏代表は、こう話す。
「ケアプランを作成した事業者には、引き継ぎ先を確保する責任があります。倒産等により事業閉鎖を余儀なくされる場合でも、利用者の生活を維持すべく、きちんと引き継ぎ先を確保するよう厚労省も指導しています。契約を結んだ顧客を無責任に放り出すことは許されない。もちろん、すべての人が希望通りのケアを受けられる施設に移れるとは限りませんが……」
「老人ホーム」が倒産しても、本来は入居者が路頭に迷うことはない。だが前出の濱田氏は、こんなケースもあると話す。
「'07年、秋田県仙北市の介護付き有料老人ホーム『花あかり角館』が倒産しました。デタラメな事業計画で経営に行き詰まり、職員の給料も不払いが続いて大量退職を招いた。32人の入居者に満足な食事も出せない始末で閉鎖。
市は帰る家のない人を緊急避難的に特別養護老人ホームで引き受けるなどした。結果、もともと特養の入居待ちをしていた人が後回しにされてしまっただけでなく、仲良く夫婦で入居していた人が、バラバラの施設に移らざるを得なかったケースもあると言います」