「原子力ムラ」の良心が動き出した? 新安全評価基軸の導入を!
信頼回復に向けた小さな一歩となるか
「原子力界のスーパーマリオ」に学べ
東京電力福島第一原発事故で失われた原子力発電に対する社会的な信頼をどうやって回復するのか――。
その具体的な手段として官民が改めて取り組んでいるのが、システムや行為の安全性(あるいはリスク)を数量化して評価・分析する「確率論的リスク評価」(Probabilistic Risk Assessment、PRA)の普及だ。
PRAは、すでに欧米を中心に食品、薬品、消費財などの分野で幅広く使われている。日本でも原子力規制庁が新規制基準の一部で採用したほか、経済産業省の審議会も電力会社経営陣にリスク管理やステークホルダーとのリスクコミュニケーションの手段として活用する提言をまとめた。
しかし、日本では、過去にPRAが根付かなかった失敗の歴史がある。当時明らかになった課題の克服は容易なことではない。
電力中央研究所が今度こそPRAを根付かせようと設立した原子力リスク研究センター(NRRC)が9月2日に都内で開催したシンポジウムで飛び出した議論を踏まえながら、PRAに対する期待と現状、課題について紹介してみたい。
シンポジウムを取材したところ、国会を取り巻く反原発派のデモに動員人数では遠く及ばないものの、真剣に原発の信頼回復を目指すPRA推進派の意気込みと熱気はなかなかのものだった。
「電力の鬼」と呼ばれる松永安左エ門が、戦後まもなく創設した電力中央研究所が、昨年10月に新たな研究開発施設としてNRRCを設立した狙いは、PRAの手法の開発やその利用と普及を通じて、原発への社会的信頼の回復を目指すことだったという。
原発事故は滅多に起きないとされるものの、ひとたび発生すれば大事故に繋がりかねない。そのため、事故リスクの科学的な解明と、恒常的に事故リスクを減らしていく努力が欠かせないのである。
そこで、電中研は思い切ってNRRC所長に海外から経験豊富な大物を招聘した。マサチューセッツ工科大学名誉教授のジョージ・アポストラキス博士だ。同博士は、米原子力規制委員会(NRC)委員や、NRCの原子炉安全諮問委員会(ACRS)委員、同委員長などを歴任してきた。
現在は年5、6回、1回あたり2週間程度の日程で来日。電中研やNRRCのスタッフたちが驚くほど電子メールでのやり取りも頻繁で、決して“お飾り”所長ではないらしい。
余談だが、スタッフたちは 密かにアポストラキス所長を“スーパー・マリオ”と呼んでいる。精力的な活動ぶりと、口ひげをたくわえた容豹が、ゲームのキャラクターと似ているからだ。