2015.09.20
# 本

ついに日本上陸!
テスラ・モーターズ「モデルX」開発秘話

「次のジョブズ」はこの男だ!(3)
書籍編集者 A

その「無理」をなんとか「可能」にしろ

マスクのデザインを見る目はときとして異常でもある。心は物理学者であり、その振る舞いはエンジニアなのだ。

きわめてビジュアル志向で、普通の人なら「いいな」と心の隅で感じるだけで忘れてしまうようなことも、明確に覚えていていつでも思い出せるという特技がある。しかも自分の思いをすぐに言葉にする能力も高い。だから、自信と確信を持って意見を言うし、消費者の共感も得やすいのだ。

かつてのスティーブ・ジョブズのように、消費者が欲しいかどうか自分でもわかっていないような隠れた欲求を見抜くのである。ドアハンドルも巨大なタッチスクリーンもそうした隠れた欲求に訴えるアイデアだったと言えよう。

テスラはSUVのモデルXも開発していた。マスクは「一家のお父さん」の目で、華やかなデザイン要素を取り入れていった。ロサンゼルスのオートショーでは、フォン・ホルツハウゼンと一緒に会場を歩きながら、SUV車は3列シートの2列目や3列目への乗り降りが面倒だと2人で問題点を指摘し合っていた。親が後部ドアを開けて子供を乗せたり、チャイルドシートを装着したりするとき、体をひねって無理な体勢をとらなければならない。

この後部座席への乗り降りがスムーズなSUVを発売すれば、大きな人気を集めるはずだ。そこでフォン・ホルツハウゼンは、「このアイデアを生かして40点か50点のデザイン案を作った。最終的には非常に過激なデザインにたどり着いた」と説明する。

そのデザインとは、マスクの言う「ファルコンウィングドア」だ。スーパーカーでおなじみの跳ね上げ式のガルウィングドアである。ただし、厳密には従来のガルウィングとは違う。ガルウィングは、上方にドアが跳ね上がるため、天井に当たることもある。

だが、ファルコンウィングは、上方に跳ね上がる仕組みは同じだが、ドア自体が中央でヒンジで折れ曲がるようになっている。だから、狭いスペースでも楽に開くことができる。子供をシートに座らせる親にとっても、無理な姿勢をしなくていいのだ。

このファルコンウィング式のアイデアを初めて聞いたテスラのエンジニアは、一瞬たじろいだ。「また無茶な注文を」と誰もが感じた。

「誰もが〝できない理由〟を探そうとしていました。ガレージの中で使えないとか、スキー板がうまく入らないとか。すると、マスクがデモ用のモデルを自宅に持ち帰って、みんなの前で、ガレージの中でドアを開けて見せたんです。『大豪邸のデカいガレージなら開いて当然だよ』とブツブツ文句を言う者もいましたけどね」とジャビダン。

モデルSのドアハンドルと同じく、モデルXのドアは注目される特徴となり、消費者の間でも常に話題に上るようになった。

「ウチにもミニバンがありますが、2列目シートに手を伸ばすときは腰をひねるから苦痛ですよ。テストでモデルXに自分の子供を乗せてみましたが、本当に楽でした。あのドアはただのお飾りのようなことを言われますが、きちんとした効果のある仕組みなんです」(ジャビダン)

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