山田の打撃の才能が開花したのは4年目の昨季。きっかけは、冒頭の杉村コーチとの出会いだった。
杉村は、内川聖一(ソフトバンク)や大リーグで活躍する青木宣親の育ての親でもある。山田は杉村が考案したティーバッティングを、一日も欠かさずやり続けた。
通称「山田ティー」と呼ばれるこの練習法は、歩きながら打ったり、ワンバウンドを打ったり、バランスボールに座りながら打つなど、11種類のパターンにも及ぶ。そうやっていろんな球種に対応できるスイングを作り上げた。
すると今までは引っ張り専門だったのが、広角に打てるようになり、安打数は飛躍的に上昇。日本人右打者の最多安打記録を塗り替えた。
杉村が語る。
「今季もやることは特に変えていません。昨年の活躍もあり、相手チームにかなり研究されたので、序盤は少し苦しみましたが、そんなときも地道にティーを続けてきた」
いい時も調子に乗りすぎない
山田にとって、トリプルスリー達成の最大の「壁」は30本塁打だと思われていた。よく飛距離は「天性のもの」と言われるが、アベレージヒッターだった山田が、なぜここまで飛距離を伸ばすことができたのか。
「もともとスイングスピードは目を見張るものを持っていましたが、今季はそれにさらに磨きがかかりました。それプラス昨季から『コツ』を掴んだような気がする。この角度、このタイミングで当てればホームランになるなと分かってきた」(前出の杉村コーチ)
ホームランを量産すると同時に、今季は盗塁への意識も変わった。守備走塁コーチの福地寿樹もこう評価する。
「脚は速いのですが、いままでは帰塁、つまり牽制されて塁に戻るのが得意じゃなかった。そこで、どこまでならリードしても大丈夫かを、見極める練習をしました。それによって自信を持ってリードが取れ、確信を持ってスタートを切れるようになった。成功率も88%(9月10日現在)。これは価値がありますよ」
山田に対しては、自チームだけでなく、相手選手からも絶賛の声が上がる。だが、山田本人は意外にも「超マイナス思考」な一面を持つ。それは今シーズンが始まる前、本誌に語った言葉にも表れている。
「本当はシーズンが始まるのが怖いんです。できるなら開幕が来てほしくない。昨年のいい成績のまま終わりでよかった」
さらに自らの今後についてもこう述べている。
「頑張って結果を残すんで、将来、引退してもなんとか球団に置いてほしいです。監督は無理だけどコーチはやってみたい。プロ野球選手って収入が不安定な職業じゃないですか、だからやっぱり安定も欲しいっす(笑)」