全国の患者のためにも
やはり遺伝子が真犯人なのだろうか。しかし、前出の小久保氏によれば、そうとも言い切れない。
「普通は、ある地域で病気が多発する場合、必ず多くの患者に共通の原因遺伝子が見つかるものですが、『紀伊ALS/PDC』ではいまだに見つかっていません。つまり、患者全員が同じ原因遺伝子を持っている、というわけではないのです。
また、『他の地域で生まれた人が、この地域に移住してきて発病する』というケースも、数は少ないですが存在します。こうした例は、遺伝だけでは説明がつきません」
環境でもなく、遺伝でもない。しかし、そこでは確かに認知症が「多発」する。この医学史上まれに見るミステリーは、今も人々を悩ませている。前出の男性住民が言う。
「村には、この病気にかからず100歳近くまで長生きする人もいます。でも、その人のお子さんは病気になったりする。
やっぱり、われわれ住民には『解決してほしい』という思いがあります。私の家族や親戚にも、病気になって、あっという間に死んでいったのがようけおりますから」
小久保氏は、病気の正体が分かれば、長年苦しんできた住民への朗報となるだけでなく、一般的な認知症やALS、パーキンソン病といった脳・神経の難病にも、治療の道が開けるのではないかと期待している。
「今後、高齢化が進めば、『紀伊ALS/PDC』のように、認知症と他の難病を併発する患者さんが全国でも増えるかもしれません。この多発地域には、認知症などの脳神経の難病のしくみを解き明かす『鍵』が隠されている可能性がありますから、少しでも研究が盛んになればと思います。
一方で、これまで出てきた仮説は、どれも確たる裏付けが見つかっていないのも実情です。もしかすると、この病気の発病には、まだ知られていない新しいメカニズムが働いているのかもしれません。現在は、原因遺伝子の研究のほかにも、iPS細胞を使った共同研究も進めています」
いつか謎が解けて、認知症を患うすべての人へ、「福音」がもたらされる日が来てほしいものだ。
「週刊現代」2015年10月10日合併号より
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