
「やっぱり中国は危ない!」。8月に起こった中国株の突然の大暴落を目の当たりにすると、こう叫びたくもなる。厄介なのは、中国政府が発表する数値が本当に信用にたるものかわからないため、本当の実力を推し量るのが難しいことだ。
そんな危うい大国の「本当の懐事情」を知る人物がいる。日本銀行で初代北京事務所長を務めた露口洋介氏(信金中央金庫・上席審議役)だ。天安門事件が勃発した89年から現地をつぶさにウォッチしてきた中国経済のスペシャリスト。その露口氏が、中国経済の問題すべてを語った。
「爆買いがなくなる」なんてことはない
中国の著名な経済学者でも、中国の株式市場は「博打場だ」と言ってはばかりません。7月~8月にかけての暴落は、「当然起こり得ること」として、専門家の間では認識されていました。
中国の株式市場は昨年の11月から中国人民銀行が5回にわたり金利を引き下げて以降、急激に上昇し、約2300ポイントからわずか半年の間に2倍以上の約5100ポイントまで上昇してしまった。
銀行の貸付が緩やかになり、レバレッジをかける信用取引も解禁されたので、株式市場への参入者が急増してしまったのです。企業業績など全く関係なく投資が膨らんだことが、中国株のバブルを引き起こし、それが一気にはじけてしまいました。
このため世界中のマスコミが「中国ショック」と騒ぎ立て、中国の実態経済までもがダメになってしまうかのような認識が広がりました。
しかし「中国人の富裕層が株で大損をしたので、日本での爆買いが減ってしまう」とか、「中国がこのままマイナス成長に陥ってしまうのではないか」という意見には私は同意できません。今回の大暴落で損をしたのは、今年3月以降に株を買った少数の人に過ぎないからです。
9月30日の上海総合指数の終値は3053ポイントでした。高値を付けた6月12日は5166ポイント。確かに2000ポイント以上も暴落したら、大損をした人が続出したと考えてしまいます。
しかし、そこは冷静になってほしい。
中国株が上昇し始めた昨年11月は約2400ポイントの水準でした。また今年の3月ごろまでは3000ポイント台で推移していた。つまり、3月以前に株を買った人はまだ儲かっているのです。
数か月での暴騰劇で大損失を被った人はほんの一部の新興投資家ですし、まだ未成熟の中国株式市場ですから、機関投資家は少なく参加者も少数です。実体経済に深刻なダメージを与えることはありません。
今回の中国株式市場の混乱に右往左往した人も多かったようですが、原因は、今の日本に中国経済全体への行きすぎた悲観論が広がっているからでしょう。その根拠は本当に正しいのか、検証してみましょう。