2015.11.01

科学界の「あの騒動」を彷彿!? 論文偽装に秘められた謎を解け!

【特別対談】伊与原新×朱野帰子~わたしの知らない理系の世界
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研究者ほど素敵な商売はない?

朱野 『ルカ』には個性的でリアルな研究者たちが何人も登場します。科学好きがニヤリとする「研究者あるある」も楽しめます。

伊与原 研究者は「好きなことをやってお金をもらえる」と思われがちですが、実情は違います。自分の好きなことを突き詰められる幸せな研究者になるには、凡人にはできないレベルの努力と情熱が必要。『海に降る』に登場する目山さんは、研究の実現のためになりふり構わず突き進みますが、現実でも成功するのはそういうタイプです。

実際には普通の研究者は組織のしがらみもあって「やれること」をやるしかない。当然成功者もいれば敗北者もいます。そんな僕にとっては当たり前のことが、読者に楽しんでもらえるんだ、というのは発見でした。

朱野 弥生という、警察の研究所に就職した女性の「自分は安定を得た代わりに、愛していた場所を手放した」という台詞はせつなかったです。『ルカ』に出てくる研究者は、伊与原さんの理想の姿なのでしょうか。

伊与原 そうありたかった姿、ですかね、僕はそうはなれず、作家になりましたから。

朱野 一方で幸せな研究者の代表と言えば探偵役の百地教授。百地さんは、ヒーローとしては全然カッコよくない。年齢は50代後半で、見た目もさえない。でも「天才」なんですよね。

伊与原 稀にいるんです、こういう人。何でもできて、自分の分野にこだわりがない。何か思いついたらその分野に行って、それなりにいい仕事をして、急に「飽きた」とか言い出して、また別の分野に行く。

朱野 この気張らない感じは、必死な研究者から見るとねたましいですよね。「ヒアデス」の発見にもまったく嫉妬しないですし。

伊与原 天才型はたいてい素直です。それと、自信があるから、自説が覆っても、その先の真実が見えるので喜ぶ。でも凡人からすると、必死に考えてきたことが全部だめになるのは恐ろしいですよね。例えば、日本の地質学界は長らくプレートテクトニクスを受容できず、日本だけ地球科学の発展がずいぶん遅れた、ということがありました。でもその態度は、一人の人間として、すごくよく理解できます。

朱野 百地さんが研究者のノートを読んで「美しい」と言うシーンがすごく好きなんです。科学を信じているものだけに分かる、入り込めない世界を感じました。

それと、後半で出てくる関西人の室賀さんがまたすごくカッコいいんです。オーストラリアのノースポールという、地質学では有名な場所での台詞が特に好きです。「今歩いてるのは、三十五億年前の海の底や」と。

私は門外漢なので、こういうくさい台詞も平気で言わせちゃうんですが、伊与原さんはカッコいい台詞を書くときはどんなお気持ちなんでしょうか。

伊与原 正直なところ、こんなこと言わない、と思いながら書いてます(笑)。研究者同士で話すときは、なるべくバカと思われないように、俺はクールにこの研究をやってるんだぞ、というアピールに必死ですし、一般の方とはあまり話さないので、なかなか格好つける機会もなく(笑)。

朱野 一般向けにプレゼンする方はたいていカッコいいことを言われますよね。はやぶさ2の分析担当の橘省吾さんは、講演で宮沢賢治の「楢ノ木大学士の野宿」という作品を引用されて、「僕たちは石の声を聞く研究者なんです」とおっしゃっていました。

伊与原 でもプレゼンの時もちょっと恥じらいはありますよ。「本当は研究費のことばっかり考えてるのになあ」とか。

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