次に隣同士での対面練習を指示された。まず右側の人が左側の人に電話をかけたという態で話しかけ、あとは交互に繰り返す。ところが私の左側の元エンジニア氏は、「あんたは訓練の必要ないじゃないか。私に練習させてくれ」と言うので、私は右側だったが聞き役になった。すると、再び同じ監視役が血相を変えてとんできた。
「指示を聞いてないのか。右側が先だ」
「どっちからでもいいでしょう。交互にやれって言ってたじゃないですか」
「右が先だと言っただろう」
おどろきの某メディア「世論調査」現場
どうでもいいことに、なぜこれほどこだわるのか。しかもこちらは笑顔で穏やかに接しているのに、監視役の若者たちは目を三角にして常に暴力的な命令口調だ。得体の知れない恐怖を感じ血の気が引いた。
「この方がね、たくさん練習したいとおっしゃるから……」
「文句を言うな。指示された通り右からやるんだ」
「要は全体のレベルが上がればいいんでしょうが」
「うるさい。おまえは命令に従えないのか」
大学出たてのような青二才だが、まるでコミカルな戦争映画に出てくる、ものわかりのよろしくない上官のよう。
「私は君らの奴隷じゃないよ」
その途端、青年は黙って同じ島の若者たちに手をあげて合図した。すると、若い女性がさっと近寄ってきて小さなメモを私の前に置いた。
「お話ししたいことがあります。別室に来てください」
立ち上がると強烈な視線の圧力を感じた。島を囲んでいる若者たちが全員、私を憎々しげに見つめていた。
別室には背広姿の背の高い男たちが何人も待機していた。その中の一人が、あいさつもなく無表情で言った。
「すぐに帰宅するように。もうあなたは必要ありません」
翌日と翌々日も合わせて労働契約の一方的な破棄だった。解雇理由の説明などいっさいなかった。私の他にも呼び出された人が数人いた──。
2014年12月2日公示の衆議院議員選挙に合わせた某メディアによる世論調査会場での一幕である。集められた中高年は人材派遣会社に登録した労働者だ。